【完】『ふりさけみれば』


実際。

アナウンス部にはみなみや恵里菜の二つ下で、河原崎美珈という、人気が急上昇している後輩がいる。

「…まさか」

「正直あくまでも類推の範疇やけど、女子だけの世界は伏魔殿やしな」

妙に説得力がある分みなみは少し考え始めていた。

「ま、ただの杞憂ならえぇけどな」

それは一慶なりのフォローらしい。

ただ、みなみにはふと思い出した心当たりがあった。

みなみが函館の女子大にいた頃、相部屋で一つ下の後輩でアイドルのグループのオーディションを受けた武藤エリカという子があった。

のちに。

武藤エリカはオーディションに合格し、女子大を中退し上京したが、ごく近頃になって再会したことがあった。

しかし。

寮では相部屋の顔見知りで知らないはずがないみなみに「初めまして」というばかりだけでなく、声は明らかに高めに作って、キャラクターも今どき流行らないブリっ子になっていたのである。

そういう例もあるにはある。

そこは恐らく一慶は知らなかったであろうが、

「本心は違うんとちゃうかな」

という一言は、みなみもなにかを思わないでいられなかった。