【完】『ふりさけみれば』


蓋を開けた。

「わあ…」

「これが二寸七分の宝石箱ってやっちゃ」

中は海老や卵、穴子などが押し寿司にされて詰まっている。

「東京でクサクサするより、京都でボケッとしとるほうが、よっぽど精神の衛生にえぇわ」

一慶は寝転がった。

みなみも、なんとなく真似をしてみた。

「この町は、うちらが生まれる遥か前から都で、この空はそのさらに前から青かったんやろな」

「…そうですよね」

みなみはさっきまでの悩みが、少しずつ縮んでゆくように感じたらしく、

「お寿司食べよっかな」

「せや、人間は腹さえ満ちてりゃ戦争も事件も起こらへん」

このときの箱寿司は、それまで食べたなかでいちばんおいしかった。