「まだちょっと咲いてへんかも分からんけど」

一慶は前置きしながら、みなみの手を握って、境内へ歩いてゆく。

それまで。

京都の神社仏閣というと、街の中にあって人も大勢あって、人混みが苦手なみなみには少し行きづらい場所ではあった。

が。

京北と呼ばれるこの一帯は街から離れており、人混みはない。

釈迦如来を参拝する人々も、どこか静かで穏やかである。

「ここは穴場やからなぁ」

あとから来歴を調べると、南北朝の頃に創建された古刹であるらしい。

が。

みなみの目を奪ったのは、一面に枝を広げ、薄紅(うすくれない)のつぼみから少しずつちらほらと咲き始めた、見事な桜の巨樹の姿であった。

「まだ少し早かったかぁ」

一慶は舌打ちして悔しがった。