驚くべきことに。
みなみの唇を、一慶の唇がやわらかく塞いでいた。
離れた。
「…えっ?」
「ごめんな、みなみ」
日頃は勘の鈍いみなみも、このときばかりは一慶の本当の気持ちは分かったらしい。
「気にしないで。両想いだったんだって、今ので分かったから」
みなみははにかみながら、少し頬を染めつつも笑顔になった。
間が、空いた。
「そういやな、みなみ」
「ん?」
「人間に万有引力があるの知っとる?」
「まさか」
「その人に惹き付ける力があると、色んな人が寄ってくる」
それが人間の万有引力や、と一慶はいう。
「まぁうちは、残念やが持ち合わせはないみたいらしいけどな」
「…違うよ」
みなみは向き直った。
「カズは万有引力あるよ」
「そんなアホなことあるかいな」
「だって…隣に引き寄せられた人がいるじゃん」
「…えっ」
逆に一慶が、少しビクッとした。
「気がついたら、こんな気持ちになってたんだよ」
「…そっかぁ」
そこでようやく。
みなみの想いに触れることが出来たような気がした一慶は、照れたような笑いを浮かべた。
「みなみ、おぉきに」
「うん、私も」
どこにでもありそうな、どこにでもいるカップルの成立の瞬間である。