太陽と月の陰

船の上で、エリックとみぬの国の言葉の殆どを覚えることができた。
新しいことをはじめるのはいつでも楽しい。
いつだって風のように雲のように誰にもとらわれず好きなように生きてきた俺だが、こいつらと何か行動を起こすことに退屈をしたことがなかった。
不安よりも期待。
常にそれが俺の中にある。

「みぬは?」
港に着きエリックしか降りないのを不思議に思い聞いた。

「いったん実家に帰る、まだすぐここに来るさ」

振り返ると船先でみぬが此方に手を振っているが見えた。
俺たちは手を上げてそれに答えると宿に向かった。
実家・・・俺にはあってないようなもの。
ただ毎日を目の前にある農作物を育て自給自足で生活することに耐えれなくて集落を出た。
その分苦労はしたがそれも楽しかった。
大陸で人に出会い楽器や唄に触れ、そしてエリックとみぬに出会えた。
行動をおこさなければなにも変わらない。
時折田舎の風景を思い出したりはするがあえて戻ろうとも思わなかった。

「行くぞ。」

自分の家にいったん戻るといったエリックが、宿で待つ俺の顔を見るなりそう言った。

「今着たばかりじゃないか。」
「そうだ、今から京へ行く。」
「・・・。」
「ここよりは随分面白い場所だ。」
「わかった。」

返事をするより先に体が動く。
俺たちは京という街についた。

京は、賑やかで華やかで、それでいてゆっくりと時間が流れるような場所だった。
俺たちは停泊する宿に荷物をおろすと其々街を歩くことにした。

大きな看板をたくさん掲げたいやに目立つ店があった。
内には、いやに綺麗な顔をした男女の絵が売られている。

「いらっしゃいまし…」

店主が俺に声をかける。

「綺麗でっしゃろ、あそこの花街の花魁たちの絵ぇですわ。」

エリックやみぬと同じ言葉なのに全く違う話し方に一瞬と惑った。
これがエリックが言っていた京言葉というやつなのだろう。
ふとひときわ美しい顔の絵が目に入る。

「これは、へそん太夫いいましてね、花街で一番の花魁です、花魁いうても男はんですけどね。」
男なのか?思わず店主の顔を見る。
「あそこの置屋はほんま、どこの花魁よりも綺麗男はんおいてはりますわ。」
ほら、と驚いたままの俺に店主が一冊よこしてきた。
ぱらぱらとめくると何人もの綺麗な顔をした男の絵が置いてあった。
一人に目が留まる。
薄い色の着物に黄色い帯を巻いた可憐な横顔の少年。

「安うしときますさかいに・・・。」

その言葉に俺は、店主に金を払うと手に持っていた本を懐にしまいこんだ。