太陽と月の陰

男衆が片付けに追われている中
僕らはそれぞれの部屋で休む。

僕は、もともとそんなにたくさんのお客さんはいなくてただ
そのついてくれる旦那さんすべてがみんな裕福みたいで
なんとなくここで2番手になっている。

時間に余裕があるから
昔の僕らみたいな子どもたちの稽古をみている。
僕も特別うまいわけじゃないから教えるのは魅せ方ぐらい。

するとふと男衆の足音がとまる。
僕は窓の戸を少しあけた。

やっぱり


兄ちゃんの歌声


「ほんまに…」


天の声やなぁ、と禿のひとりが言う。
小さい時からずっと聞いている天上の声
こうやって歌うのは、気分がいいか


つらい時。


「自分ら、今日はもうええから部屋に戻り。」

禿たちを部屋から出すとそのまま僕は兄ちゃんの、
太夫のところに向かった。


はだけた着物もそのままに
長煙管をふかしながら窓に座る兄ちゃんは、同じ男娼をする僕がみても
とても綺麗で
だけどその横顔は


「なんや、そのか」
僕に気がついた兄ちゃんは、ふっと笑って煙管を咥えた。
「なんかあったん?」
「…」
「別に、無理に言わんでもええけど…」
「いつか」
僕の言葉を遮るようにそう言うと軽く咳払いをして続けた。
「俺はこっから出て行くんや。」
「僕も…」
そうやでと、兄ちゃんのそばに座る。

月の白い光が兄ちゃんにあたって
そこだけがぼうっと浮き上がってるように見えた。
そのまま兄ちゃんが消えていなくなってしまうんじゃないかって
思わず袖を握る。

「どないしたん」
少し掠れた声で話しかける兄ちゃんは
もう、いつもの兄ちゃんでホッとしてそのまま

僕は眠ってしまった。


兄ちゃんは家族が莫大な借金を作ってこの置屋に連れてこられ
花街一の太夫になった今もそれを返せない程の金額だということを

そんな簡単に、ここから出られないということを


僕が知るのはもっとずっと後のことだった。