「用意はいい?もう出発よ」
私のお母さんがいう。
「だいじょぶ!ねぇ、ママ本当に戻ってこないの?」
幼心にそう言った私の言葉にお母さんは苦い顔をした。

気付くと部屋には光が差し込み、朝を告げる鳥の鳴き声が響いていた。
(また夢を見た)
私は急いで支度をする。
高校生になっても、あの時を、あの日を引きずったままでいる。
たった10年。でも、私にとっては長い10年。何があっても忘れられない、
私の心の傷。癒されることは無い。
(パパ……)
私のお父さんはあの日の一週間程前に変わった。

敵意と殺意剥き出しで怒鳴るお父さんと泣きながら抵抗するお母さん。

それは眠っている私をも起こすほどの激しい論争だった。

そしてあの日、私とお母さんは逃げ出した。遠くに行く、もう戻らない。それだけを告げられ、大好きなぬいぐるみと着替えを持ってこの街に越してきた。

初めて見る山、初めて見る海、川。
すべてが新しく、きらきら輝いて見えた。

ただ、友達がいなかった。