だけど俺は、照れくさくてすぐに目をそらした。
『あ、だからその……このまえ手当してもらったし……』
『ありがとう。その言葉だけで十分だよ』
奈乃は微笑んだあと、遠くを見つめて言った。
『浦中くんのこと、ずっと前に見かけたことがあったの』
『え……?』
『川に落ちちゃったネコ、助けたことあったでしょ』
『いちいち覚えてなんか……』
『あのとき、橋の上から見てたの。通り過ぎていく人たちはみんな見て見ぬフリで、奈乃が急いで川のほうに行こうとしたら、浦中くんが川の中に入っていった』
『べつに俺は……』
『ほっとけなかったんでしょ?誰だって心配することはできるけど、助けようとするのは本当に優しい人だと思う』
そんなふうに俺を見てくれる人なんて、いままでいなかった。
『このまえのケガの手当ては、ネコを助けてくれたお礼』


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
