そんなことも知らず、俺は初めて会ったとき、
傷の手当てをしようとする奈乃の手を跳ねのけてしまった。
『いいって、たいしたことねぇから』
『うちのお母さん……看護師なんです』
『は?だからなんだよ』
『こんな大ケガしてるのに、無視できるわけないでしょ?』
奈乃は、強引に傷の手当てをしはじめた。
『どうしてこんなケガしたんですか……?』
『ただのケンカだよ』
口の横に絆創膏を貼ってくれたあと、奈乃は俺をまっすぐに見つめた。
『ケンカ……』
『悪いかよ?』
『人を傷つけて、なんとも思わないの……?』
『ん……べつに』
そう言って俺は、奈乃から視線をそらした。
『……うそつき』
『は?』
『知ってるんです』
そう言って奈乃は、立ち上がった。
『あなた、本当は優しい人だもん』
そう言い残して、奈乃は去っていった。
『なんなんだよ……あの女。ヘンな女……』
――だけど、あの日から俺は……奈乃のことが忘れられなかった。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
