「でもね、いざこの場所に立つと、死ぬことが怖く思えた」
奈乃は空を見上げて、震える息を吐き出した。
「一歩前に足を出せば、飛んでしまえば……死ねるのに。怖かったの」
奈乃が怖かったのは、残された人のことを考えたとき。
「奈乃が死んだら、ママはどぉなるんだろうって」
自分がどれだけつらくて、苦しくても。
奈乃は、大好きなお母さんのことを考えていた。
「一生、消えない悲しみを負わせるのかなって。どれだけママを泣かせちゃうのかなって。もしかしたら、奈乃のあとを追って死のうとするかもって……」
空を見上げる奈乃の横顔を、あたしは涙ぐみながら見つめる。
「生きてるのも苦しくて、死ぬことも怖かった。あの頃……どうしていいか、わかんなかった」
奈乃にとってこの場所は、
死ぬことを、ただ踏みとどまるための場所だった。
死ねない、だから生きるしかない。
死にたい……死ねない……。
奈乃はずっと、その繰り返しだったんだね。
「そのうち、心も壊れていったの」
奈乃は、心が壊れたと言った。
「気づいたらノートや紙に、いじめる人間の顔を浮かべて“消えろ”って、書き殴るようになってた」


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
