「ねぇ、重たいんだけど」
本当は、うれしいはずなのに。
つい心とは裏腹に、冷たい言葉を口にしてしまう。
湊に下から見つめられると、いっそう胸がドキドキして。
「どいてよ」
恥ずかしくて少し顔を背けたあたしに、湊はいつもの調子で言った。
「やって」
湊はいつのまにか手に耳かきを持っていて、あたしに渡してくる。
「優しく丁寧にな」
「……何様なの?もう」
いままでは、これくらい何ともなかったのに。
湊を好きだと自覚してからは、湊の行動にいちいちドキドキしてしまう自分がいる。
自分の気持ちを隠して。
笑って、何ともないフリをして。
そうやって過ごすのは、思った以上に大変だった。
湊はあたしの膝に頭を乗せたまま、テレビに夢中で。
あたしは湊の耳かきをしながら、その横顔を見つめる。
こんなに近くにいても、遠く感じて。
ダメだとわかっていても、もっと近づきたい。
触れたくて。ぎゅって抱きつきたくて。
胸の中は、湊への想いで溢れていた。
言えない……好き。
このままずっと、言えない。
切ない片想いは、これからもずっと続いてく。
――そして、この次の日。
一生忘れることのできない日が訪れようとしていた。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
