「約束って?」
琥都は真剣な表情で俺を見る。
「……結雨の知らない約束」
いまも、結雨は知らない。
誰かに話すのは、これが初めてだった。
「結雨の父親……結雨が小学生のとき、病気で死んだんだ」
――あの日のことは、きっと一生忘れない。
まだ小学生だった俺と結雨は、学校が終わったあと、入院している結雨の父親の病室へ見舞いに行った。
そのときの俺らは、病気について何も詳しいことは知らされていなくて、
すぐに元気になるものだと、勝手に思い込んでいた。
結雨がトイレに行くと言って病室からいなくなり、俺は結雨の父親とふたりきりになった。
『湊』
『ん?』
おじちゃんは、ベッドに横になったまま俺を見つめた。
『結雨と、これからもずっと仲良くしてくれるか?』
『うん』
『ありがとな。湊がいてくれたら安心だ』
『おじちゃん、早く元気になってね。結雨が寂しがってるから』
『湊……おじちゃんがいなくなっても、結雨と……』
言葉を詰まらせたおじちゃんは、どれだけつらい気持ちを抱えていたんだろう。
結雨の前ではいつも、平気だからと笑顔でいたのに。
『おじちゃんがいなくなるって、どういうこと……?』
『湊……』
『ダメだよ、いなくなったら。だって……だって結雨は……おじちゃんのこと大好きなのに……』
目に涙があふれ、おじちゃんの顔が滲んで見える。
『おじちゃんも、結雨たちのそばにいたいよ。けど……おじちゃんの病気な、もう治らないんだって』
『ウソだ……そんなの……』
おじちゃんがいなくなる。
おじちゃんの病気はもう治らない。
それって……。
『結雨のこと、よろしく頼むな』
おじちゃんは俺の頭を撫でながら微笑む。
『おじちゃん……死んじゃうの……?』
黙ったままのおじちゃんを見て、そういうことなんだと悟った。
ショックのあまり、目の前が真っ暗になった。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
