先輩の真剣な表情に、まっすぐな瞳に。
あたしは何も言えずに先輩の話を聞くことしかできなかった。
「深珠を忘れることなんてできないって思ってたのに」
「じゃあ来瞳先輩のことは、もう……」
先輩は、あたしの瞳を見て小さくうなずいた。
「別れてから、結雨のことばっか考えてる」
そう言って先輩は下唇をきゅっと噛みしめた。
「……このまま結雨を朝霧に渡したくない」
この失恋から立ち直るために、あたしはあの日、先輩に復讐することを決めた。
先輩に浮気したことを後悔させて、いつか必ずあたしを本気で好きだと言わせて……そして振ってやる。
それで、あたしの復讐は終わりにするつもりだった。
だけど……。
「失ってから気づくなんてな。でもこれ以上、後悔したくないから」
あたしの頬に触れていた先輩の手がゆっくりと離れ、その手はあたしの肩を掴んだ。
「また誰かに本気になるなんて思わなかった」
そう言って先輩は、あたしの瞳をまっすぐに見つめる。
「結雨、好きだよ」
そう言われた瞬間、あたしの瞳からは溢れていた涙がこぼれ落ちた。
「いままで……ごめん」
先輩はあたしの肩を掴んだまま、あたしの体をそのままゆっくりと後ろに倒した。
ベッドの上で仰向けになったあたしの上に覆い被さった先輩は、真剣な表情であたしの顔をジッと見つめる。
「二度と結雨を裏切ったりしない」
「先輩」
「今度こそ、大切にするから」
そう言って先輩は、優しくあたしの髪に触れる。
「これからはずっと、結雨だけを見てる」
先輩はゆっくりとあたしに顔を近づけてくる。
このまま、あたし……。
先輩とキスするの……?
「俺のとこ、戻ってきて」
涙がこぼれてく。
あたしは涙を止められなかった。
この涙の意味を。
あたしは知ってしまったから――。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
