結雨は、俺たちの前で立ち止まると足元を指差した。
「ねぇ、ふたりとも聞いて?今日来たら上履きが新しくなってたんだけど」
奈乃と俺は、ちらっと目を合わせて、すぐに逸らした。
「ちょー怖くない?新手の嫌がらせかな、これ」
そう言って結雨は、冗談ぽく笑いながら話す。
「新しくなったんだから素直に喜べよ」
「え?もしかして湊が買ったの?」
俺は無言でうなずく。
「え?なんで?あたしに何の断りもなく?」
キョトンとした顔で結雨は俺を見る。
「おまえの足がクサすぎて?上履きもクセぇから……」
「ちょい、ちょい、ちょーい!え?誰の足がクサいって言いました?」
俺は真顔で、結雨の顔を指差した。
「アッハッハッ、笑っちゃうわ~。あたしの足からあま~いバラの匂いがするって有名なのに?」
「は?バラの匂いだと?ふざけんな」
「じゃあ嗅いでみなさいよっ」
「おい、コラ。人に足を向けんな」
「誰がクサイ足だって?それが女の子に言うセリフなわけ?」
「女の子?おっさんの間違いだろ」
「おい、コラ」
「なんだよ?」
そのとき、横から奈乃のため息が聞こえた。
「もぉ~ケンカしないのっ。ほら、教室入ろ?」
奈乃は後ろにまわって、俺と結雨の背中を手で押していく。
「ねぇ、湊」
結雨が俺をジッとにらみつける。
「あ?」
「毎朝早く出掛けて、一体どこで何してるわけ?いいかげん教えなさいよ。人の上履き勝手に捨てたりしてさぁ」
もう犯人もわかったから、見張る必要もねぇしな。
「明日からは、おまえと一緒に行くから。そんなスネんなって」
「べつに、スネてないしっ」
結雨は目を細めて、口を尖らせた。
「なんだよその顔。可愛くねーぞ」
俺が言うと、後ろにいる奈乃が笑顔で言った。
「湊くんの“可愛くない”は“可愛い”ってことでしょ?結雨ちゃん愛されてる~っ」
「なっ……!んなわけねーだろっ」
俺は足早にひとり先に教室へと入っていった。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
