「アホか……泣くわけねぇーだろ」
「……っ……ん……」
結雨の小さな手が、俺の背中を優しく叩き、
その心地いい音に、俺はそっと瞳を閉じる。
……いまでもまだ
母親に捨てられたあの日を、忘れることはできないけど。
でも、ベランダに出ると思い出すのは。
あの日の記憶だけじゃない。
毎年のように結雨と花見をして
くだらないことで笑い合ったり、ふざけ合った記憶もちゃんと思い出す。
あの日……ひとりじゃなくてよかった。
結雨がいてくれてよかった。
母親に振り払われた手を、握りしめてくれたのは結雨だった。
“湊ちゃんには、結雨がついてるよ”
だけど、母親がいなくなったあの日から俺は、
結雨に冷たい態度を取ったり、ワガママを言うようになった。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
