夜の9時を過ぎたところだった。
毎年の恒例行事とか結雨は大げさに言うけど、
ふたりで花見っていったって、場所は家のベランダだ。
うちのマンション近くにある公園の桜を、毎年のように俺ん家のベランダで見ながら、
ふたりでお菓子やジュースを片手に、べつになんてことのない話をするだけ。
今年は俺ん家のベランダではなく、結雨の家のベランダで花見をすることに。
ベランダも隣だから、見える景色はほぼ変わらない。
「ふふっ。お花見と言えば、これでしょ」
「よくあったな」
結雨が、透明のパックに入った3本入りのみたらし団子と、冷蔵庫からサイダーの缶を2本持ってきた。
「お母さんが、おやつに買っておいてくれたみたい」
「ふーん」
大人になったら、サイダーの缶がビール缶に変わんのかなとか。
そもそも、いつまで毎年ふたりでこんなふうに花見すんのかなとか。
ふと思った。
「夜風……気持ちいいね。春の匂いがする」
「春の匂いって、どんな匂いだよ」
「湊には、わかんないか」
爽やかな夜風が、結雨の髪を揺らした。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
