腕を掴まれて立ち止まったあたしは、先輩の顔を見つめた。
「ちょっといい?」
「え……?」
「話しあるから来て」
強く掴まれた腕が……痛い。
先輩と見つめ合ったまま、あたしは何も言えずにいた。
そのとき、あたしの隣にいた奈乃が細く小さな声で呼んだ。
「結雨ちゃん」
奈乃のほうを向いたあたしは、無理に笑顔を作った。
「奈乃ごめん。先に教室戻ってて」
「でも……」
奈乃はあたしが心配なのか、その場から動かずにいる。
奈乃に向かって“大丈夫だよ”と言うかのように、あたしは微笑んで小さくうなずいた。
「……わかった。先に行ってるね」
そう言って奈乃は、先に階段を駆け上がっていく。
「先輩、話って……」
あたしの質問に、先輩は無言で微笑む。
先輩はあたしの腕を掴んだまま、階段を下りていく。
「先輩っ、どこに……」
先輩の後ろ姿
先輩に掴まれた腕
この痛くて苦しくて
どうしようもなく切ない胸の鼓動に
あたしはまだ先輩が好きなのだと
嫌でも実感する


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
