マンションのエレベーターの中、湊とふたりきり。
並んで立っているあたしたちは無言のまま、エレベーターが1階に下りていくのを待つ。
あたしは何か気配を感じて、ふと自分の足元を見た。
――ササッ。
「ぎゃぁぁぁ―――――っ!!」
大声で叫んだあたしは、咄嗟に隣に立っていた湊に抱きついた。
「……おまえ、耳ぶっこわれんだろーが」
「と、と、トカゲっ」
「は?……ヤモリだろ」
「どっちでもいいよ!わかんないっ!ヤモリでもタモリでもいいけど怖い!やだっ!やだっ」
「ヤモリかイモリだろ。おまえビビリすぎてタモリ出てきたじゃねーか」
「やーやー、こっち来るっ」
あたしは湊に抱きつきながら狭いエレベーターの中を動き回る。
「落ちつけよ。エレベーターが壊れんだろっ」
「あたしよりエレベーターの心配?」
「あたりめーだ。閉じ込められたらどーすんだよ」
そのとき、エレベーターが1階に止まった。
エレベーターの扉が開いた瞬間、あたしは真っ先に外に飛び出す。
「ハァ、ハァっ……朝から最悪」
あたしはマンションの前で力が抜けたようにしゃがみこんだ。
「ヤモリ、頭に乗ってんぞ?」
「ええっ!?」
「うっそー」
湊はべーっと舌を出して、あたしを追い越して歩いていく。
アイツ……。
あたしは立ちあがって、前を歩く湊のあとを追いかける。
「はぁ……」
あたしの気持ちは、どんよりと重いのに。
なんで今日も、朝からこんなにいい天気なんだろう。
太陽の光が眩しすぎるよ。
「学校行きたくないなぁ……」
青い空を見上げても、二階堂先輩の顔が浮かぶ。
「家戻るか?俺は別にいいけど」


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
