朝食を食べ終えたあたしたちは、それぞれ部屋に戻って制服に着替えた。
「結雨、行くぞ」
「あ……ちょっと待ってよ」
靴を履いて玄関に立っている湊の元へ、あたしはバタバタと走っていく。
「ねぇ、湊」
「あ?」
「ネクタイしてないじゃん」
湊は自分の胸元に手をあてる。
「あ、忘れた。取ってこい」
「ネクタイ忘れるとかさぁ、天然なの?」
「うるせぇ。早く持ってこいよ」
「……えらそうに」
あたしは湊の部屋からネクタイを持って、玄関の前に立つ。
ワイシャツのえりを立てて待つ湊の首に、ネクタイをかけた。
「結んであげる」
そう言ってあたしは湊のネクタイを結び始めた。
「なんか企んでねぇ?」
バレた。へへっ。思いっきり首締めてやろうって思ったのに。
「べつに~なにも企んでませんけどぉ~」
――キュッ。
「ぐほっ。キツく締めすぎだバカっ」
「あら~ごめんなさぁ~い?」
ニコッと笑ったあたしは、そのあとちゃんとネクタイを結び始める。
ボタンの外れたワイシャツから見える骨張った鎖骨。
突起した喉仏、首筋に目をやる。
なんか……男の子って感じ。
湊の首元から、いい匂いがする。
「早く結べよ」
「あ……はい、できたっ」
ネクタイを結んで湊の顔を見上げると、湊はフッと笑みをこぼす。
「行くぞ」
そう言って玄関のドアを開けた。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
