もう、お母さん行ったよね……?
いまもあたしは後頭部を手で押さえられていて、湊の胸元に顔を押し付けられたままでいる。
ねぇ、息が出来なくて苦しいんですけど。
もうすぐ死んじゃいますけど。
――ドクン、ドクン、ドクンッ……。
あれ……?
湊の心臓の音。
なんか速く聞こえるけど……。
――バタン。コツコツコツ……。
玄関からお母さんが出ていったみたい。ヒールの足音がだんだん遠くなっていく。
「……行ったな」
そう言って布団をめくった湊は、あたしの後頭部を押さえていた手を離した。
「ぷはーっ。ふーっ、ふーっ、はぁーっ」
布団の上に横になったままのあたしは、口から思い切り息を吐き出す。
湊は枕の上に片肘をついて、あたしの顔をジッと見つめて言った。
「おまえ、顔赤くね?」
「どんだけ息止めてたと思ってんのよっ!?顔だって赤くなるわっ」
あたしは何度も深呼吸をする。
あー生きててよかった。
「悪魔に殺されるところだったわ」
「あ?なんつった?」
湊は、布団の上であおむけになっているあたしの頬を、むぎゅっと強くつまむ。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
