自分の好きなものだけ先に食べて、残りはあたしに食べろと……。
へぇ~。
『味のついたコッペパンおいしそう……って、なるか!ボケェ』
あたしは両手で、湊の頬をぐいーっと横に引っ張る。
くぅ~イライラする~。
湊はあたしの手を振り払った。
『食わねぇなら捨てれば?』
あたしは湊をにらみつける。
捨てるなんてできないあたしは、そのコッペパンを口に入れた。
『あ~おいし~』
嫌味っぽくあたしが言うと、湊は冷めた表情で言った。
『よかったな』
『……別にパン嫌いじゃないくせに、何で残したのよ?』
『そーゆー気分だったから』
湊は、とくに悪びれる様子もなく、たこやきを食べている。
あ、違うわ。
たこやきの中身の“たこ”だけを食べている。
ホントにコイツは……!
『ちょっと!何でたこだけ、ほじくって食べてんのよ!』
『そーゆー気分だから』
あぁそう。へぇ。
ふふっ……キレそう。
『残った部分、これどーすんのよぉ!』
『おまえが食えよ』
きっと、あたしが今まで湊を甘やかしてきたせいだ。
こんなわがままを平気で許されると思ってる。
『残さないで全部食べなさいっ』
たこのないたこやきを、あたしは湊の口に無理やり押し込んだ。
『んぐっ』
食べ物のことで夢中だったあたしたちは、その時、何が起きていたのかわからなかったんだ。


![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)
