嘘と本音と建前と。

「じゃあ私はこれで。」


教室のドア横に立った香織はまだ声を震わせている。


空知と目が合うと香織はすぐに逸らして必死になって笑うのを堪えている。


「マフラーで苦しいなら持ってこないか付けるかしなよ。」


司が自分の耳からイヤーカフを取るとスクールバッグの肩紐へぶら下げた。


「ういっす。」


香織が照れたような笑いを浮かべた。


司からの角度だとただ笑っただけに見えたに違いない。


空知は眉間にシワを寄せて俯いた。


目標とも言える声を聞くを達成したはずなのに心に鉛が

ぶら下がっているように重たい。


「なあ藤堂。俺もコートとか着た方がいいのかな?」


意図が読めないのか司が聞き返してきた。


空知はブレザーのポケットに手を突っ込むと「なんでもない。」と

笑った。