嘘と本音と建前と。

その声に振り返えると香織が微笑えんでいた。


司は反射的に1歩後ろに下がるとカウンターの机の出っ張りに

背中をぶつけた。


「暇ですよね。」


1歩詰めてなお微笑む香織に司は目を背けた。


「じゃあ先輩、向こうでお話しましょう。」


司のセーターの裾を少しつまんで引っ張った。


香織が司書に会釈したのにつられて司も会釈してしまった。


香織はすぐに裾から手を離し、司の前を凛とした姿勢で歩く。


そして前と同じ席に座った。


「先輩酷いです。私、先輩が来るのずっと待ってたんですよ。」


香織は頬を膨らませ真っ直ぐ司を見た。


司は香織の表情を一瞬見てすぐに目をそらし、手元の本をじっと見た。


「人の話、聞いてます?」


高い声から一転、冷静な声で香織が司に問いかけた。