嘘と本音と建前と。

香織が去った後、自分がここに留まる理由が無いことを思い出した。


司は鞄を掴んで図書室を出た。


スマートフォンで空知の連絡先を開いたがすぐに取りやめた。


スマートフォンを握りしめ、ブレザーのポケットに突っ込んだ。


そしてその場でため息を漏らし、いつもより遅めのペースで

靴箱へと向かった。


昨日借りた本を読み終え、他の本を借りに図書室に行くと香織がまた

あの席にいた。


気付かれないように夏目漱石の三部作を手に取り、カウンターへ

持っていく。


司書が手際良く返却と貸出の手続きを済ませ、

帰ろうとする司を引き止めた。


「染谷さんと約束してたんじゃないの?」


司書の口からは耳を疑う言葉が聞こえてきた。


何故そのことを知っているのだろうか。


硬直する司の後ろに突然気配を感じた。


「酷いなぁ。忘れちゃったんですか、先輩。」