人が多いクラブの中は身動きが取りにくくて、思うように進めない。
逃げ出す時亜子ちゃんが何か言っていたような気もしたけど、今のあたしには聞ける余裕なんてなかった。
人に当たりながら地上に出る階段まで来たところで、ドンッと激しく誰かにぶつかる。
倒れそうになったけど、なんとか踏みとどまった。
「あ、ごめんね。大丈夫?」
聞こえたのはフワリと優しい穏やかな声。
見上げると、にこやかに笑う長谷川君の姿があった。
ゆるふわパーマとクリッとした大きな目、初めに感じた冷たいイメージはもうない。
なんで、こんなところで会っちゃうかな。
最悪だし。
キュッと唇を噛みしめて、涙を拭う。
泣き顔なんて見られたくない。
「もしかして、如月さん?」
ぶつかった相手があたしだったからなのか、長谷川君は目を真ん丸く見開いてビックリしている。
そりゃそうだよ。
あたしだって、こんなところで会うなんて思ってもみなかった。
長谷川君の隣には辰巳君もいて、無表情にあたしを見下ろしている。
何を考えているかわからない冷酷な瞳が怖い。



