彼は藤娘

彩乃くんと付き合って、早や、半年。
クリスマス、除夜の鐘からの初詣、バレンタイン、ホワイトデー……と、一通りのイベントを過ごしてきたにも関わらず、確かに私たちはまだ、だ。

遥香には大笑いされているが、キスすら、ない。
引き寄せられることは多々あれど、いわゆるハグも……抱きしめられることも、ない。
 
だからと言って、気持ちがないとは思わない。
あいかわらず過剰な愛情を注がれている、と思う。

思うけど……遥香や義人くんのようなオトナの恋愛を楽しんでる人たちから見ると、幼いんだろうな。

でも、物足りないともおもわない。
2人とも未体験ゾーンだからなんだろうか。
てか、未だに見つめられるだけで、手をつなぐだけでもドキドキするのに、それ以上なんて想像できないのが本音。

「じゃ、ね。あきらけいこ。よいゴールデンウィーク前半を。」
「あきちゃん、発表会までに彩乃を男にしてやってよ。」
「義人っ!うるさいっ!あき、聞くな!耳が穢れる!」
3人は、賑やかに電車を降りていった。

……さすがにこんな話をしてて一人残されるのは……めちゃめちゃ恥ずかしく肩身が狭かった。

昼休み、生徒会室へ行くと、副会長にこう聞かれた。
「あきのお友達、ダンス部復帰絶望やって?生徒会スカウトしよっか?」

返答に窮してると、議長が注意してくれた。
「副会長。デリカシーなさすぎ。」

「ん~、でも、確かに、気心知れたお友達が一人いたほうが、あきちゃんは楽かもねえ。一応、誘ってみたら?」
会長にまでそう言われて、私は逡巡した。

燈子ちゃんが今、どれだけ落ち込んでるのかわからないだけに、どうすればいいのか。
「まあ、まだ時間あるし保留で。ゴールデンウィーク中に話してみます。」

5時間目は、芸術の選択科目。
私たちは、揃って音楽を選択している。
今年は私学大会の文化発表会なるものがあるらしく、コーラス発表の出演者を募っているらしい。

ほとんどみんなが興味を示さない中、遙香だけが喜々として挙手した。
「ほら、なっちゅんもあきちゃんも!手を挙げて!欠席の燈子ちゃんもです!先生~!うちら4人、参加します~!」

はあ?
断ろうとしたけれど、音楽教諭がめっちゃ喜んでくれるのを見ると拒否できず……結局、遙香に押し切られてしまった。

「でも、何でコーラスなんかしたがるの?遙香、カラオケは好きかもしれんけど、別に音楽の授業で歌う歌は好きちゃうやん?」
早速音楽教諭から手渡された譜面のコピーを台紙に貼り付けながらそう尋ねた。

「しかも、これ!『ハレルヤコーラス』『アメージンググレース』『グリーンスリーブス』『ゴンドラの唄』……うち、仏教校やのになんで『ハレルヤ』とか歌わんとあかんの!」
なっちゅんの言う通り、偏った選曲だ。

「いいやん。音楽の点数こっそり上げてくれはるで。それに何と言っても、今年のコーラスは混声やねんで!出逢いの、チャ~ンス!」

……遙香……まだ出逢いたいんや。
どれだけ元気なんや。

私と奈津菜は顔を見合わせた。