彼は藤娘

そうこう言ってるうちに、茶店から清水寺へ。
わ~……き~れ~い。
漆黒の夜空に、紅葉の錦が浮かび上がっている。

「彩乃くんの『紅葉狩』をココで見たいなあ……」
そうつぶやくと、彩乃くんは困っていた。

清水の舞台からライティングされた紅葉を眺めたあと、随求堂の胎内めぐりへ。
大随求菩薩の中に入るという意味合いらしいが、真っ暗で何も見えない!
大きな数珠を模した手すりを頼りに暗闇を進む。

……不意に彩乃くんが私の手を引いてくれた。
ひんやりとした繊細な指にドキドキする。
そういえば、これがはじめての普通のデートかもしれない。
今更緊張してきた。

「あれやな。」
前方に石が1つぼんやりと光っている。
彩乃くんは石を撫で回して願い事をした。

「あきの一生を俺に下さい。」

は!?
……普通は、「あきを幸せにしたい」とか「あきと一生一緒に生きたい」とかって言うとこちゃうの?
なんか、彩乃くん……らしすぎる。
素直に喜べないというか、突っ込みどころ満載というか。

そもそもそれって、菩薩じゃなくて私にお願いすることじゃない?
ま、もう、いいけどね。
私はほとんど観念していた。

「あきは?」
彩乃くんの綺麗な顔に青白い光がうつっている。
私は低く笑ってから、石を撫で回して言った。

「お家元に、ひ孫の家元教育をさせてあげられますように。」
彩乃くんと芳澤流を支える苦労の道だと思うとまだ足がすくむけど、お家元と彩乃くんが仲良くなってくれるためなら、頑張りたいと思い始めている。

……彩乃くんにどこまで意図が伝わったのか、わからない。

わからないけれど、強く強く手を握られた。


翌日の11時に、彩乃くんが我が家を訪れた。
両親の歓待っぷりはすさまじく、まるで三国一の婿がねとでも思っているようだ。

さすがに彩乃くんが日本舞踊のお家元の跡取りと聞くと、両親は不安そうに顔を見合わせたが。
「思えば、明子が物心つく前から華道や茶道を習いたがったんも、全てご縁かもしれんね。娘は努力家やから本人が頑張ると言うなら、私たちは娘の幸せを信じます。親の私たちのほうが至らず、何の助けもできませんが、それでもいいんですか?」

意を決したような父の言葉に、私は口をパクパクした。
何で結婚の挨拶みたいな感じになってるの?
単に彼氏が遊びに来ただけじゃないのか?

……あかん。
完全に周囲を固められた。

それもコンクリートで、がっちがちに。