彼は藤娘

これは、なんだ!?
ものすごくみずみずしい、栗!

「美味しい……」

私の感嘆にお家元が微笑まれた。
「よかった。たくさんあるから、どうぞ。」

それを聞いて彩乃くんがさっとお皿を出した。
お家元は、うれしそうにまた1つ彩乃くんのお皿に分けた。

「栗の和菓子は恵那の栗きんとんが最高だと思ってました。でも、これは、超えましたね。」
みずみずしさ、口の中の食感で勝る気がする。

「恵那の栗きんとんは確かに美味しいですね。栗そのものですものね。栗の産地らしいお菓子だと思います。」
お家元が静かにおっしゃる。
「それに対して、この『栗乃子』は、京都らしい手をかけたお菓子ですね。」

「本当に。見た目は田舎饅頭みたいでパッとしないけど、お味は洗練されてますね!」
私がそう言うと、お家元は
「まあ!」
と楽しそうに笑われた。

「彩乃くん、3つめ?ほんまに好きなんやねえ。」
一人無言の彩乃くんは、それでもお家元に銘々皿を差し出していた。

ついでに私にもお茶碗を差し出したので、
「欲しいなら欲しいって顔と声で言うてくれたらいいのに。」
と言うと、彩乃くんはちょっと拗ねた口調で。
「じゃぁ、くれ。」
と言った。


「いつの間に家元と仲良くなったん?」
3人の小さなお茶会を終えたあと、彩乃くんが拗ねモードで私にそう聞いてきた。

「ふふ。こないだ。お家元を『おばあさま』って呼んじゃったら、明るく笑ってくださって。私、早くに祖母を亡くしてるから、うれしかったあ。」
彩乃くんはますますム~ッとしてたけど、私は無視した。

「ほな、家元がコレくれたんも、あきが気に入ったからか?」
ゴソゴソと懐ふところから彩乃くんがチケットを出す。
清水寺の夜間拝観券。

「紅葉のライトアップ?行く!うれしいっ!」
はしゃぐ私を見て、彩乃くんはため息をついた。
「そんなに行きたいんやったら、しゃあないな。ほな、これから行こうか。」

16時半、お家元にチケットのお礼と辞去のご挨拶をして、私たちは出発した。
私だけ制服で彩乃くんは私服……何となくそぐわない気もする。
やっぱりお家元にお着物置かせてもらおうかな。

清水道からの参道は相当こんでいたので、五条坂まで行った。
大谷本廟のすぐ横の道を登っていく。
既に日が落ちた薄暮にお墓の中を通ることに、彩乃くんは抵抗を感じたようだ。

「このへんって昔は無縁墓地やったとこやろ?気持ち悪くないん?」
彩乃くんに聞かれて、笑ってしまった。

「そんなん言うたら、京都に住めへんわ。てか、うちの学校がある山の名前知ってる?『阿弥陀ヶ峰』やで。いかにも、やろ。それに私は、幽霊とかよりも、生きてる人のほうが怖いわ。」