彼は藤娘

「私、『二太郎』くんより本命くんのほうに興味津々。遥香にそんな遠大な計画立てさせるって。どんなイイオトコなんやろ。」
しみじみそう言う奈津菜に、私も同意する。

遥香は、絶世の美女ではないが、美人だ。
スタイルもいい。
長い脚を惜しみなく出したミニスカートと、いちいち言動が浮わついてて、時に品がなさすぎるので、女子には受けが悪いが、同じ理由で男子にはもてはやされるようだ。

「だから、本命じゃないってば。強いて言えば、目標?」
遥香は、ばつが悪そうにそう言った。

「お茶のお家元のご子息より、手が届かない人なんや。」
燈子ちゃんがそう言って、レモンをかじった。
見てるこっちも唾液がわいてくる。

遥香ちゃんは、うーん、と腕を組んで首を傾げた。
「よくわかんないのよね。文句なしにかっこいいし、頭もいい。一緒にいたらすごく楽しいし、リッチだし。でも、近づけば近づくほど遠く感じるというか。誰にも本気にならない遊び人って感じ?こっちも遊びと割り切らない限り、近づけないかな。無駄に傷つきたくないし。」

さすが、ふられたことのない遥香。
賢いんだか、計算高いんだか……もしかすると、ほんとは臆病なのかもしれない。

「『二太郎』くんには傷つけられへん自信あるの?白足袋なんか、いかにも遊び人やで。」

白足袋とは、昔から京都を陰から牛耳ってきた権力者をさす。
僧侶、茶人、大店(おおだな)の旦那衆というところだ。

遥香と燈子ちゃんには意味が通じてなかったので、説明したところ、遥香は目の前で手を振った。
「別に『二太郎』くんに惚れてへんもん。風向き悪くなったら、こっちからバイバイするし。」

「あ、そ。」
燈子ちゃんが、つきあいきれんわ!とばかりに肩をすくめた。

私も、ため息をついてしまった。
……これだから、遥香には共感できないのだ。
悪い子じゃないとわかってるけど、考え方が違いすぎる。

「遥香が、『ちゃんと』誰かを好きになれるんか、心配やわ。」
私がそう言うと

「……後悔するわ、自分をもっと大事にすればよかった、って。」
と、奈津菜が言った。

「なっちゅん、怖い。それ、呪いみたいやで。」
私はそう言ってみたけど、

「♪呪われろ!♪」
と、ミュージカルのように、燈子ちゃんも歌で重ねた。

「まあ……病気と妊娠だけは気ぃつけや。遥香が幸せならそれでいいから。」
燈子ちゃんの言葉を私たちの総意として、翌日お開きとなった。


帰り道、遥香と別れて、燈子ちゃんと二人きりなってから、私はこっそり言った。

「……あんまりいい噂聞かへんねん、『二太郎』くん。金遣い激し過ぎるとか、大事なお茶会を当日欠席するとか、社中さんを妊娠させたとか。」

お茶のお家元と聞いて、まさか?と思ったけど、今高2の次男坊なら私の習う流派に間違いなさそうだ。