彼は藤娘

「お待たせ。義人、ありがとう。相手しててくれたんや。」
全ての人を見送った彩乃くんが、そう言いながら近づいてきた。

……やば……ちゃんと見るとドキドキする。

「ほな、行こか。」
彩乃くんが地下へ降りるエスカレーターに乗ろうとするのを、義人くんが慌てて止める。
「ちょっ!その格好で電車で帰る気か?送るわ。車、来てもろてるし。」

……私も朝、色留袖で普通に電車で来たのに、彩乃くんが紋付袴で電車に乗るのはあかんにゃ。
セルジュも義人くんも、彩乃くんをめっちゃ甘やかしてるということが今日、よーくわかった。
女形化粧を施した彩乃くんに惚れたってのは、本当なんだろう。
不思議と、変な気がしないけど。

結局、義人くんのお家の車に3人で乗り込んだ。
「先に、あきちゃんの家でいいな?」
「すみません、よろしくお願いします。」
助手席に座り、運転手さんに行き先を告げる。

日曜日の夜21時前ともなると、観光シーズンとは言え、道も流れている。
車はスムーズに走り、21時半には我家の前に到着した。
「義人くん、ありがとう。彩乃くん、明日夕方お家元行くわ。じゃ、おやすみ~。」
そう言って車を降りる。

が、なぜか彩乃くんも降りてきた。
「義人、すぐやし待ってて。」
そう言って、戸惑う私の背中を押す。

「彩乃くん?何で?ちょ~!勝手にインターホン押さんといて~!」
嘘~!
彩乃くんは、うちのインターホンを押した!

「……は~い~?」
母の声が中から聞こえる。

やばい!マジか!
玄関のドアが開いて、母が出てくる。

「あら、明子、遅かったわね。……え!?どなた!?お友達!?」

彩乃くんに視線を移したとたん、母のテンションが明らかに上がった。
「はじめまして、梅宮と申します。明子さんとお付き合いさせていただいてます。今日はお送りするのが遅くなってしまいましたので、お詫びとご挨拶をと思い、夜分に失礼いたしました。」

……彩乃くんの言葉に私のテンションもポンっと上がった。
付き合ってるって、言ったー!
私達、付き合ってるんだー!
今更だけど、やっぱりそういう言葉がうれしい恋愛初心者の私は、一気にご機嫌さんになった。

「あらあらあら~!!!まあ!そうでしたか!まああああっ!!!あの、どうぞ。玄関じゃなんですから、お上がりくださいませ。お父さ~ん!お父さ~ん!」
完全にテンパってる母に、彩乃くんは苦笑した。

「いえ。今夜は遅いのでこれで。よろしければ来週の日曜にでも、改めてご挨拶に寄せていただいてもよろしいですか?」

「ええ、是非、どうぞ。お待ちしてますわ。まあ~、そうでしたか~。あなたが……。」

奥から父が顔を出し、また引っ込めた。
……出てくる気、ないのかな。