彼は藤娘

その後、幾人かにお家元との関係を聞かれたけれど、さっきのように名前を聞くか、
「私どもからは何も申せません。お家元にお伺いください。」
と、セルジュがはね除けてくれた。

セルジュもそうやけど、竹原くんも、彩乃くんも、同い年なのにどうしてこんなに毅然と大人と話せるんだろう。
私も見習わなければいけない……のかな。
前途多難だ。

パーティーの終わり頃、やっと一回りした竹原くんがやってきた。
程なく、ほうぼうへのご挨拶が一段落したらしい彩乃くんも合流した。
「食ったか?」
彩乃くんにそう聞かれて、私はちらっとセルジュを見て、うなずいた。

「あきらけいこは、茶室の作法は完璧だったけど、パーティーは全然ダメ。」
セルジュがそう言うと、彩乃くんが苦笑した。
「はじめてやろ?しょうがないわ。これから場馴れしてったらええ。」
これから……。

「あ、お開きみたいや。最後、見送ったら終わりやし。あき、ロビーで椅子に座って待ってて。」
そう言い残して、彩乃くんは去った。

「ほな、出ようか。」
竹原くんに促され、私たちは会場を出た。
中から拍手とお家元の声が聞こえる。

「途中で出ていいの?」
そう聞くと
「今、出とかんと、あの金屏風の前に並んだお家元に挨拶せな帰れんくなるで。」
と、竹原くんに言われる……そういうものなのか。

私はその金屏風がかろうじて見える、ちょっと離れた場所に竹原くんと座った。
「じゃ、僕は帰るよ。あきらけいこ、また明日。」
セルジュがそう言って、帰ろうとする。

「あ、明日から当分、朝練があるねん。ダンスの。せやし早い電車で行くし。」
そう言うと、セルジュはニヤリと笑った。
「まずいタイミングだね。」

「?……どういう意味?」

「さあ?杞憂かも。じゃあね。」
セルジュは、何も説明せずさっさと帰ってしまった。

竹原くんは、彩乃くんが来るまで残ってくれた。
「ほら、始まった。あれが一番大変やねん。」

つられて見ると、なるほど、金屏風の前に立ったお家元と彩乃くんに挨拶すべく、ずら~っとパーティー参加者が並んでいた。

「お家元うれしそうやな。肩の荷を下ろすにはまだかかりそうやけど。」
竹原くんのつぶやきに、疑問を尋ねてみた。
「ね~、お家元って、彩乃くんのこと、嫌いじゃないよねえ?」
私がそう聞くと、竹原くんは眉をひそめた。
「孫やで。かわいいに決まってるやん。」
……そうよね。
「ほな、彩乃くんが意固地なんかなあ。」
竹原くんは、うーんと首をひねった。
「折を見ては、社中さんとか高弟さんに話聞いてるねんけど、結局のところ、彩乃はお母さんが追い出されたと逆恨みしてるねんろうな……当時の社中さんにも、引き留め止めへんかったお家元に対しても。」