彼は藤娘

舞台がはねた後、つい余韻に浸ってしまって、ボーッとしてしまった。
「ほな、行くで。」
竹原くんにそう言われて、立ち上がる。

「あ!待って!ロビー行ってくる!極楽鳥!」
お着物でパタパタ走ったけれど、既にみなさん、綺麗なお花を抱えてらっしゃる。
遅かったか……。

それでもロビーに行くと、他のお花はほぼなくなっていたのに、極楽鳥(ストレチア)は残っていた。
大きなスタンドの一番最上部にさされているので、たぶん、女性には届かなかったのだろう。

「セルジュセルジュ!取って~!」
「あきらけいこ……恥ずかしい。」

もうほとんど誰も残ってないのに、セルジュはぶつぶつ文句を言いながらやっと来て、取ってくれた。
極楽鳥が5本。
うれしい。
着物を汚さないように、持ち帰るために準備された梱包用のペーパーやセロハンで慎重に包んだ。

先に行った竹原くんを追ってセルジュと楽屋へ。
既に彩乃くんは、衣装もかつらも取り、化粧を落としに行っていた。

「……まるで七夕やな。美女の彩乃とは来年のゴールデンウィークまでもう逢えへん。」

竹原くんがため息をついてそう言いながら、オシャレな雰囲気の男性と共に楽屋にシートを敷いていた。
馴染みの美容師さんに出張してもらったらしい。

「まあ、来年も女舞いとは限らないけどね。」
セルジュがチラリと私を見てそう言った。

……私?
私が彩乃くんの演目に口出しするわけないけどなあ。

しばらくすると手ぬぐいで顔を拭きながら彩乃くんが帰ってきた。
「お疲れ。……すみません、よろしくお願いします。」

私とセルジュに一声かけて、彩乃くんは美容師さんに頭を下げてシートの上に座り、浴衣の上からケープを巻かれた。

「鋏(はさみ)、入れますか?」
美容師さんが、竹原くんに聞く。

「あきちゃん、切る?」
私はぶるぶると首に振った。

「あ、じゃ、俺。」
彩乃くん本人がそう言って、美容師さんから鋏を借りる。
「悪ぃな。」
誰に向かってそう言ったのかわからないけれど、彩乃くんはつぶやくようにそう言ってから、左手で髪をひとまとめに掴み、何のためらいも見せずに鋏をガシガシ入れて強引に切ってしまった。
あ~~~~~。

涙がぶわっとこみ上げる。
ざんばら髪の彩乃くんは不敵に笑っていた。

「じゃ、お願いします。適当に。和服に合うようにしといてくださったら助かります。」
美容師さんは、快活に髪を切り始めた。

あっという間に、仕上がる。

「普段は適当にワックスつけて毛先遊ばせてもらってもいいし、着物の時はワックスかムースを両手に取って……こんな感じで、前から後ろになじませて……」
美容師さんの手で、彩乃くんは緩やかな……オールバック……とは言わないのかな?
後ろに緩く撫で付けた、凜々しい男性に変身した。

か……かっこいい!
涙はどこかへ消えてしまった。

ひや~!
男だ!男だ!……今更だけど、男だ!(笑)

やばい!

男なのに、色気がある!
むしろ、色気が引き立つ!

何だ!?これは!