たばかられた!と、涙が浮かんできた。
でも彩乃くんは、私の涙の理由を取り違えた。
「しょうがないやん。もう限界やって。ひげも生えてるし。……あきが、俺の髪好きって言うてたから今まで我慢してきたけど。もうそろそろ、ええやろ?」
彩乃くんの言葉は私には色々と衝撃で、涙も引っ込んだ。
ひげ!
この綺麗な顔にひげ!
しかも、私?
知らん知らん。
……もしかして、それも、昔の話?
いや、確かに「あやのちゃん」の長い綺麗な髪は大好きやったけどさ。
「『あやめ草』やと思ってた。」
私がそう言うと、彩乃くんはちょっと胸を張った。
「去年、身長が170cm超えた段階で、『をなご』卒業したで。家元には髪切れ切れってずっと言われてたし、切ってったら喜ぶんちゃう?」
平生(へいぜい)ををなごにて暮らさねば、上手の女形といはれがたし
……彩乃くんとの再会を知ってから、芳澤流が始祖としている芳澤あやめの芸談『あやめ草』を読んだ私は、彩乃くんの長髪もそのせいだと思ってた。
まさか私の好みをキープしててくれたとは、つゆ知らず。
てか、それなら、切らないでー。
ほんまにほんまに、長髪好きやねん。
またうるうるしてると、彩乃くんが、私の両肩に手をかけて顔を覗き込んだ。
「この髪であきの家に行ったら、ご両親びっくりしはるやろ?それに、あきが縫ってくれた結城も、さっぱりしたほうが似合うから。」
「触らんといて。着物に白粉(おしろい)つく。」
私は思わず体をねじって、彩乃くんの手から離れる。
……彩乃くん、指先まで真っ白に塗ってはるねんもん。
彩乃くんはムッとしたらしく、不機嫌そうに言った。
「ほな、そういうことで!義人、悪いけど段取りして。」
楽屋から出た私は、セルジュにまたからかわれた。
「彩乃のあの顔!あきらけいこ、ほ~んと、彩乃を振り回すよね。」
いやいやいや。
「振り回されてるのは私やわ!パーティーとか聞いてへんし!髪のことかって何もかも初耳やっちゅうねん!」
プンプンしてると、早速、彩乃くんの美容師さんを手配した竹原くんが苦笑した。
「まあ、あいつのワガママは天然やから。あきちゃん、これからも苦労するよ。でも、あきちゃんなら大丈夫。負けてへんから。」
……それは、私も天然でワガママってこと?
納得いかないけどなあ。
私たちは、向かいのおそば屋さんで昼食をとり、13時の開演直前に入場した。
お席は、3列め8、9、10番。
花道から3席め。
いい席すぎて、何だか緊張してしまう。
でも彩乃くんは、私の涙の理由を取り違えた。
「しょうがないやん。もう限界やって。ひげも生えてるし。……あきが、俺の髪好きって言うてたから今まで我慢してきたけど。もうそろそろ、ええやろ?」
彩乃くんの言葉は私には色々と衝撃で、涙も引っ込んだ。
ひげ!
この綺麗な顔にひげ!
しかも、私?
知らん知らん。
……もしかして、それも、昔の話?
いや、確かに「あやのちゃん」の長い綺麗な髪は大好きやったけどさ。
「『あやめ草』やと思ってた。」
私がそう言うと、彩乃くんはちょっと胸を張った。
「去年、身長が170cm超えた段階で、『をなご』卒業したで。家元には髪切れ切れってずっと言われてたし、切ってったら喜ぶんちゃう?」
平生(へいぜい)ををなごにて暮らさねば、上手の女形といはれがたし
……彩乃くんとの再会を知ってから、芳澤流が始祖としている芳澤あやめの芸談『あやめ草』を読んだ私は、彩乃くんの長髪もそのせいだと思ってた。
まさか私の好みをキープしててくれたとは、つゆ知らず。
てか、それなら、切らないでー。
ほんまにほんまに、長髪好きやねん。
またうるうるしてると、彩乃くんが、私の両肩に手をかけて顔を覗き込んだ。
「この髪であきの家に行ったら、ご両親びっくりしはるやろ?それに、あきが縫ってくれた結城も、さっぱりしたほうが似合うから。」
「触らんといて。着物に白粉(おしろい)つく。」
私は思わず体をねじって、彩乃くんの手から離れる。
……彩乃くん、指先まで真っ白に塗ってはるねんもん。
彩乃くんはムッとしたらしく、不機嫌そうに言った。
「ほな、そういうことで!義人、悪いけど段取りして。」
楽屋から出た私は、セルジュにまたからかわれた。
「彩乃のあの顔!あきらけいこ、ほ~んと、彩乃を振り回すよね。」
いやいやいや。
「振り回されてるのは私やわ!パーティーとか聞いてへんし!髪のことかって何もかも初耳やっちゅうねん!」
プンプンしてると、早速、彩乃くんの美容師さんを手配した竹原くんが苦笑した。
「まあ、あいつのワガママは天然やから。あきちゃん、これからも苦労するよ。でも、あきちゃんなら大丈夫。負けてへんから。」
……それは、私も天然でワガママってこと?
納得いかないけどなあ。
私たちは、向かいのおそば屋さんで昼食をとり、13時の開演直前に入場した。
お席は、3列め8、9、10番。
花道から3席め。
いい席すぎて、何だか緊張してしまう。



