彼は藤娘

これが、彩乃くん……。
セルジュと竹原くん、惚れるわけだ。
しかも、男性とわかっても、親友付き合いしてるんやもんなあ。
いやはや、参りました!

「あきらけいこは?それ、楽屋見舞いじゃないの?」
セルジュに指摘されて、ぎょっとする。

「見えた?」
帯地で作った大きめの和装バッグに、一応しのばせてきたけど……何か、場違いな気がして出すのをやめようかと思ったんだけど……。

どう見ても素人ラッピングを見て、竹原くんが聞いた。
「手作り?クッキーとか?焼いてきた?」

「ううん。実用品。普段使ってもらおうかと思って作ってみたけど、今日は似合わへんから後日渡す。」
そう言ってバッグごと背中に回して隠す。

「俺に?なに?」
彩乃くんの顔がパッと輝く。
……大輪の牡丹の花が咲いたような笑顔……ああ、絶対そぐわないし。

じりじりと後ずさりしたけど、ひょいとセルジュにソレをつまみ上げられた。
「Tiens!(どうぞ)」
セルジュはフランス語らしき言語とともに、ソレを彩乃くんへと献上した。
まるで、姫君に仕える騎士のような恭しい仕草。

でも彩乃くんは、リボンをほどくのももどかしいらしく、袋を引き裂いた……あ~あ~。
「何も破らんでも……。なになに?渋いね。ポーチ?」
竹原くんが横から覗きこむ。

「扇袋と足袋袋。結城紬(ゆうきつむぎ)で作ってんか。普段のお稽古のお着物に合うかな~って……。」
そう、普段の男物のお着物に合うように藍紺色に紫黒の紋の結城 (のはぎれ)を買ったのであって、今の豪華絢爛きらきら緞子の赤姫な彩乃くんには全く似合わない!

「あきらけいこ、意外と器用?あ、象牙!」
セルジュが扇袋の笹止めを見て、そう言った。

……よくわかったな。
昔は象牙が当たり前に使われてたらしいけど、今はほとんどがプラスチック。
貝、水牛、木も考えたけど、やっぱり象牙がいいな~……と、家の和箪笥をあさっていたら、いくつかの古い足袋袋にぶら下がってたので、使わせてもらった。

しばらく、じーっと見ていた彩乃くんがやっと口を開く。
「……お前、ほんま、地味なんが好きやな。」

その通りやけど……。
彩乃くんの気に入らんかったかな。

「でも、頃合いやな。決めた。舞台はねたら、断髪式やろ。」

え!?
……何の話?
断髪?
彩乃くんの?
長い髪、切っちゃうの?
えええええっ!!!

竹原くんが、驚いた表情で彩乃くんに聞いた。
「はねたらって、終演後のパーティーは?」

「16時半終演、18時開宴。間に合うやろ?あ、あきも出席しぃな。」

聞いてない!
何?パーティーって!

……て、せやから、私、色留袖なん!?

また、勝手に……ひどい!