彼は藤娘

「さすが、目ざといわ。目立つ?わかる?」
「うん。わかる。かまへんの?対外的にも社中さんらにも、婚約発表?」
竹原くんの言葉にぎょっとする。

「まさか!」
「でも、そういう意味やで、それ。」

ううううう。
じたばたしてると、特急列車が入ってきた。
これまた、オシャレ~なスーツ姿のセルジュ。

「やあ。振袖もいいけど、その地味な着物、あきらけいこによく似合ってるね。品があるように見えるよ。」

最近セルジュは、だいぶ私に打ち解けたらしく、イケズを言われることが増えた気がする。

「これ、ちょっと前まで彩乃くんが着てたらしいで。」
「へえ?彩乃が……匂い立つような美しさだったろうね。」

もう!
あからさまに差ぁつけて!
イケズ!

ちょっとむくれてると、竹原くんが苦笑まじりに言った。
「あきちゃんにこんなん言うたら、逆に嫌な想いさせるかもしれんけど……俺ら2人とも、5月の彩乃の舞台で恋に落ちたんやわ。せやし、今日、ちょっと変なテンションねん。ごめんな。」

意味がわからない。
「2人とも?彩乃くんに?」

セルジュがニヤリと笑った。
「あきらけいこははじめてなんだよね。見ればわかるよ。僕らが彩乃に骨抜きになったわけが。」
骨抜き……。

「私も、彩乃くんの舞にいつも心、持ってかれるけどな。」
首をかしげてそう言うと、セルジュと竹原くんは顔を見合わせて笑っていた。

会場である南座には、お昼前に到着した。
楽屋口から入り、彩乃くんのお部屋を訪ねる。

中には、目をこするほど絶世の美女がいた。
……マジか。

普通にしてても美女に見える彩乃くんだけど、白塗りの女形化粧を施したその姿は、何て言うか、もはや神々しいほどに美しい。

「どや?化けてるか?」

外見が綺麗なだけで中身は普通の男性なので、彩乃くんはいつもの調子でそう言った。
ぽかーんと口を開けたまんま見とれ続ける私に対し、竹原くんとセルジュは感嘆の言葉を交わしていた。

「俺、やっぱり、彩乃が男ってわかってても抱けるわ。」
しみじみそんなことを言う竹原くんの頭を扇ではたく彩乃くん。
「気持ち悪いっちゅうねん。」

セルジュもまた、ぶつぶつと私には聞き取れないフランス語混じりで興奮してるようだ。

「せや、花、ありがとうな。ロビーに飾らしてもろたわ。」
彩乃くんが2人にお礼を言った。

……楽屋見舞いは荷物になるからとしつこく断ってた彩乃くんに、世慣れた竹原くんは代わりに花を入れたのか。
さすが~。

「あき。よぉ似合ってる。セルジュ、義人、あきのこと、頼むな。」
彩乃くんは艶然と微笑み、そう言った。

私は声をかけてもらっただけで、ぽーっとした。
驚き過ぎて、言葉が出なかった。