彼は藤娘

「あきちゃん、また朝から疲れてる……大丈夫?踊れる?」
教室に着くなり、奈津菜にそう心配された。

「あ~……やっぱ月曜朝イチからダンスってきっついな~。一昨日(おとつい)から彩乃くんに振り回されてて。」

ぐったりと机に突っ伏してると、遙香が既に体操服に着替えてやってきた。
「あきちゃん、おはよ~。着替えへんの?」

「あ、遙香!ちょ~、『五太郎』さんって妻子持ち?大丈夫?」
私はガバッと起き上がってそう聞いた。

「え……不倫?……最低……」
奈津菜にそう言われても、遙香は胸を張った。
「どうせお互い遊びやもん。別にいいでしょ!」

いやいやいや。

「倫理的に責めるつもりはないけどさ、『五太郎』さんの奥さんには遙香を訴える権利があるってことだけ覚えておきや~。しかも発覚したら3年間は時効にならんしな。気ぃつけや~。」

私がそう言うと、奈津菜に怒られてしまった。
「あきちゃん!そういう問題じゃないし!不倫なんかあかんって!」
奈津菜の目に涙が浮かぶ。

「なっちゅん?」
……もしかして、ご両親のどちらかが不倫してはったりする?

「あ~、なっちゅん、泣かないで~。ごめ~ん。ほら、遙香も謝って~。」
奈津菜のそばにしゃがみ込み、背中をさすってあたふたしてると、クラブジャージのまま燈子ちゃんが朝練から戻ってきた。

「朝から賑やかやねえ。どした~?なっちゅん、なんで泣いてるの?」
遙香と私が燈子ちゃんに説明してると、奈津菜が涙を振り切って起き上がった。

「燈子ちゃん!こんな乱れた2人ほっといて、私たちは清く正しく美しく生きようね!」
「何で私まで乱れてるほうに入れるんよ。めっちゃ純愛やっちゅうねん。」

ついそう反論したけど、燈子ちゃんが言いにくそうに口を開いた。
「今さっき、廊下であきちゃん、噂されてたで。結婚すんの?相手、同い年やしまだ無理やんなあ?」

「あ~~~~。」
もう噂になるんや、早いな。

「何なに~?あきちゃんも、もうヤッたの?」
遙香の脳天気な言葉に、私はさらに脱力した。

「ヤッてへんし。キスもハグも何もないし。……せやし純愛やってゆーてるやん……」

「マジで!?きゃ~っはっはっはっ!!!」
遙香がお腹を抱えて大笑いする。

こんな風に、彩乃くんも竹原くん達にからかわれてるんやろうな。
……まあ、自業自得よね。

担任教諭がやってきて朝礼を始めても、体育館に移動しても、遙香は笑い続けてた。
一生笑ってろ。


放課後。
生徒会室へ定例会議に赴いた。
特に行事もないので、教師から卸される議題や、生徒からの投書の中からできそうなことだけを取り上げる程度だろうとタカをくくっていた。
しかし、会長から注意を受けてしまった。