彼は藤娘

お母さまの準備してくださった夕食は、子供の喜びそうな洋食だった。
ハンバーグ、オムライス、(決してパスタではない)スパゲティミートソース、ポテトサラダ、オレンジジュース!

決してまずくはないのだが、このメニューをいかついお継父さまと、見た目だけ美女の彩乃くんが食べてる図というのは、なかなかシュール。
2人のがっつく姿をニコニコと少女のような微笑みを浮かべて見てらっしゃるお母さま。
……おもしろすぎる。

何となく、あのお家元と、このお母さまが合うわけないよな、と思ってしまう。
同居してた間、ものすごーく大変だったんだろなぁ。

お食事を終えると、彩乃くんはまだオレンジジュースを飲みほしてない私を急かしてお稽古場へと降りた。
……ご両親と少しはお話したいんだけど……と、目で訴えてたのが通じたのだろうか。
彩乃くんがお稽古に集中し出した頃、お母さまが静かに降りてこられた。
会釈すると、お母さまは私の隣に腰を下ろして、優しい声でおっしゃった。
「退屈でしょ。」

へ?

「いえ、昔も今も、彩乃くんの舞うのを見てるの、好きみたいです。時間がたつのも忘れて見とれてしまいます。」
そう返事すると、お母さまはキョトンと不思議そうな顔をされた。

「おもしろい?」

???

「おもしろいというか、そうですねえ、魂を奪われるというか。」
「そう。変わってるのね。」
「……はあ。」

頭の中に、はてなマークが飛び交う。
彩乃くんの本当のお母さま、なんだよね?

亡くなられた彩乃くんのお父さまは、お家元のご子息だから当然踊る人だよね?
2人は駆け落ちするほどの大恋愛だったんだよね?

……理解できない。

「あの、今日、彩乃くんが自分の着ていたというお着物を持って来たんですけど……」
せっかくチャンスなので、私はそう切り出してみた。

「ええ。あきさんに差し上げたいんですって。たくさんあるから大変でしょうけど、全部もらってくださると助かるわ。」

「え?」

どうしよう。
お母さまの仰る意味が、さっきから全く理解できない。
宇宙人だ。

「でも、あの、ものすごく高価なものばかりですし、いただくわけにはいきません。」
私が本気でそうお断りしても、お母さまは首をかしげた。

「そうなの?着物のことは彩乃に任せてるから、私にはわからないのよ、ごめんなさいね。彩乃があきさんに差し上げたいと言うなら、受け取ってやってください。」
最後は手までついて頭を下げられてしまった。

あら~~~。
呆然としてるとお母さまは、微笑まれた。

「うちにお嫁に来てくださるんでしょ?仲良くしましょうね。」

……。

こ、答えられない。
本当にいいのか?

私は、曖昧な笑顔を返すことしかできなかった。