芳澤流名取試験は、つつがなく終了した。
後片付けを済ませてから、水屋では差し入れや水屋見舞いをいただいて小さな打ち上げ状態になっていた。
お家元を含む幹部連中は、採点の取りまとめの後でお食事会があるらしい。
もっとも、未成年で、来月大事な舞台を控える彩乃くんは参加しないらしいが。
私は、早々に辞去してお着物を脱ぎ、丁寧にたたんで彩乃くんに返しに行った。
「お疲れ。イジメられんかったか?」
既に採点も終わったのか、それとも抜け出したのか、彩乃くんは自分のお稽古を始める直前だったようだ。
「腫れ物に触るようやったよ。彩乃くんこそ何も言われてへんの?」
彩乃くんは二本の扇を器用に扱いながら、しれっと言った。
「いや。幹部連中、あきのことを昔からの許婚(いいなずけ)って思い込んだみたいやで。家元、引きつって固まってたわ。」
マジか!
……てか、彩乃くん、確信犯だよね?
私は返答に窮して立ち尽くしてた。
いつまでも黙ってる私の目を、彩乃くんが下から覗き込む。
「あき?」
「……聞いてへん。」
「へ?」
「私、彩乃くんから、何も聞いてへん。」
私は彩乃くんの正面に正座した。
彩乃くんも、私に付き合ってか、きちんと正座した。
……どうでもいいけど、太ももの太さと座高の高さが、何か口惜しい。
「あらたまって、どうしたん?聞いてへんって何を?」
どこまでとぼけるのか、本当にわかってないのか、彩乃くんは飄々としている。
「彩乃くん?わかってる?いいなずけ、って、結婚の約束してるって意味やで?結婚どころか、付き合おうとも言われてへんし、好きとも言われてへんねんけど。」
よくわからない状態のまま何となく進展してきてるような気はするけど、結局のところ、私たちはただの友達でしかない。
昨日、幼なじみやったことがわかったけど、せいぜい「幼なじみの延長」みたいに打ち解けただけ。
大事に想ってくれてることはさすがにわかるけど、将来の話が出るような関係じゃない。
「彩乃くんが優しくしてくれるたびに、自惚(うぬぼ)れか勘違いか、自信がなくて気持ちが右往左往してるのに。何でそんな誤解させてほっとくん?……そりゃ、彩乃くんと違って、私はココではお客さんでしかないけど、立場ないわ。」
彩乃くんは、口をへの字に結んで黙っている。
私は、今日借りた着物を彩乃くんの横にそっと置いて、手をついて頭を下げた。
「大切なものを、ありがとうございました。」
そして頭を上げて、睨んだ。
「でも、こんな悪戯(いたずら)やめて。」
私の両目からポタポタと涙がこぼれ落ちた。
後片付けを済ませてから、水屋では差し入れや水屋見舞いをいただいて小さな打ち上げ状態になっていた。
お家元を含む幹部連中は、採点の取りまとめの後でお食事会があるらしい。
もっとも、未成年で、来月大事な舞台を控える彩乃くんは参加しないらしいが。
私は、早々に辞去してお着物を脱ぎ、丁寧にたたんで彩乃くんに返しに行った。
「お疲れ。イジメられんかったか?」
既に採点も終わったのか、それとも抜け出したのか、彩乃くんは自分のお稽古を始める直前だったようだ。
「腫れ物に触るようやったよ。彩乃くんこそ何も言われてへんの?」
彩乃くんは二本の扇を器用に扱いながら、しれっと言った。
「いや。幹部連中、あきのことを昔からの許婚(いいなずけ)って思い込んだみたいやで。家元、引きつって固まってたわ。」
マジか!
……てか、彩乃くん、確信犯だよね?
私は返答に窮して立ち尽くしてた。
いつまでも黙ってる私の目を、彩乃くんが下から覗き込む。
「あき?」
「……聞いてへん。」
「へ?」
「私、彩乃くんから、何も聞いてへん。」
私は彩乃くんの正面に正座した。
彩乃くんも、私に付き合ってか、きちんと正座した。
……どうでもいいけど、太ももの太さと座高の高さが、何か口惜しい。
「あらたまって、どうしたん?聞いてへんって何を?」
どこまでとぼけるのか、本当にわかってないのか、彩乃くんは飄々としている。
「彩乃くん?わかってる?いいなずけ、って、結婚の約束してるって意味やで?結婚どころか、付き合おうとも言われてへんし、好きとも言われてへんねんけど。」
よくわからない状態のまま何となく進展してきてるような気はするけど、結局のところ、私たちはただの友達でしかない。
昨日、幼なじみやったことがわかったけど、せいぜい「幼なじみの延長」みたいに打ち解けただけ。
大事に想ってくれてることはさすがにわかるけど、将来の話が出るような関係じゃない。
「彩乃くんが優しくしてくれるたびに、自惚(うぬぼ)れか勘違いか、自信がなくて気持ちが右往左往してるのに。何でそんな誤解させてほっとくん?……そりゃ、彩乃くんと違って、私はココではお客さんでしかないけど、立場ないわ。」
彩乃くんは、口をへの字に結んで黙っている。
私は、今日借りた着物を彩乃くんの横にそっと置いて、手をついて頭を下げた。
「大切なものを、ありがとうございました。」
そして頭を上げて、睨んだ。
「でも、こんな悪戯(いたずら)やめて。」
私の両目からポタポタと涙がこぼれ落ちた。



