彼は藤娘

そう言いおいて、彩乃くんは屏風の後ろにまわり、手早く着物に着替えた。
今日は、紋付きの黒羽二重。
かっこいい~~~~。
見とれてると、彩乃くんは艶やかに笑って、手招きした。

「一緒に写真撮ろ。」
こんな綺麗な人と写るのは抵抗あったけど、うれしそうな彩乃くんに押し切られて、屏風の前でセルフツーショット。

お揃いの紋。
顔の造り的にはまったく不釣り合いなのに、同じ紋の着物を着てるだけで、なんだか私たちは一対の雛人形のようだった。

彩乃くんは、私と画像を何度も見比べて、ニコニコしていた。
ダメだ。
そんな顔してくれるなんて、うれしすぎる。

彩乃くんの笑顔を見ていると、私は、このあと当然起こるであろう風当たりにも耐えられるような気がした。

気合いだ!
負けない!
がんばる!


9時半に、私たちはそれぞれの持ち場へと向かった。
水屋に入り、昨日のようにご挨拶してから、準備をお手伝いする。

まず、年嵩のおばさまが、私の着てる着物の紋に気づいた。
それから、さらに年配のかたがたは、この着物自体を覚えていらっしゃるようだ。
ヒソヒソと陰口されているのを感じた。
私は、無心で昨日のように振る舞った。

やるべきことは、試験の始まる前、昼食時、14時半の3度のお茶と、昼食の仕出し弁当を出して引くだけ。
……まあ、だからこそ、暇を持て余した古参のかたがたが噂話と悪口で盛り上がるのだけど。

昨日聞いてた感じでは、お家元はかなり敬愛されてるようだったな。

残念ながら、今日の噂話のターゲットは私。
さすがにあからさまに聞いてくる人はいないけれど、一挙一動を観察されているのは間違いな
かった。

昨日私に小さなイケズをしてた人たちに至っては目をそらされてしまう。
なんだかなあ。

孤独だった分、大広間へ出るのが待ち遠しかった。
少なくとも2人は私に好意的に接してくれるから。

私は昨日と同じように、迅速かつ丁寧にお家元からお茶をお出しした。
お家元がじっと私を見てらしたのは感じたけれど、笑顔で頭を下げるにとどめて、次のかたへと進んだ。
……まあ、みなさん、このお着物をご存知らしく、興味津々でガン見されてたけど。

彩乃くんだけは、涼しい顔をしていた。
小憎らしいけど、かっこいい。
惚れた弱み、だな。

最後に、私の師の師で、彩乃くんの大叔母さまは、
「よぉ映えてるわ。」
とおっしゃってくださった。

私は、泣きそうになりながら、ほほえんだ。