彼は藤娘

翌朝は彩乃くんと待ち合わせて、早い電車に乗った。
朝からおデート気分で浮かれていたけれど、電車に乗り込んできた彩乃くんの荷物を見て驚いた。

「おはよ。何か、荷物おっきくない?」
「おはよう。あきに似合いそうなん、いくつか持ってきた。」
「……え?」

何となく怖い気がして、それ以上聞けなかった。
でも、彩乃くんはずっとご機嫌だった。

地下鉄に乗り換えて北上する。
お家元に着いたけれど、まだ誰も来ていないようだ。

「こっち。」
彩乃くんが、私の手を引いて奥へと歩き出す。

「え?いいの?」
どう見ても、関係者以外立入禁止区域。

「俺の部屋、こっちやもん。」
彩乃くんの部屋……あるんや。
ココのお孫さんで、跡取りやったら、当たり前?
何となく恐れ多い気分で、私は彩乃くんに導かれて奥へと進んだ。

彩乃くんのお部屋は、小さな坪庭に面した明るい八畳間だった。
広くて綺麗で、快適な空間。
……ここだけ見てたら、お家元であるおばあさまにすごく愛されてるように感じるんだけどな。

違和感を覚えながら、彩乃くんが持ってきた荷物を解いているすぐそばに座る。
「こんなん、着ぃひん?絶対似合うから。」

かばんの中の風呂敷を開けると、華やかな小紋……あ、訪問着?付下げ?色無地もある。
かわいい!
桜色、朱鷺色、紅梅色、藤色……何枚持ってきたん?
「どれもめっちゃかわいい。え、これ、貸りていいの?」

彩乃くんは、きょとんとした。
「いや。貸すんちゃうで。やる。俺、もう着られへんやつばっかりやし。」

はっ!?
彩乃くんの顔と着物を何度も見る。
……いやいやいや。
どう見ても、ど~~~ぉ見ても、めちゃめちゃ高そうな一級品ばかり。
「さすがに、それは……」

私が断ろうとしたら、彩乃くんは首を振った。
「気に入らんなら捨ててくれたらええ。でも、俺、あきが着てるとこ、見たい。」

……ずるい。
そんな風に言われたら……断れへん。

「ほんまにうれしいけど……親に説明つかへんわ。」
触れるのもためらうほど綺麗なお着物に、私はため息をついた。

桜色の無地の美しいこと。
あのシボ、あの地紋、うちの着物とはレベルが違いすぎ。

「大叔母さまからもろたってゆーてもいいし、俺が直接ゆーてもいいし。別にかまわんやろ。」
さらっとそう言って、彩乃くんは桜色のお着物を少し広げた。
「とりあえず、今日はこれ。似合うから!」

紋が入ってる。
当然ココの定紋よね。
……いやいやいや、あかんあかん。

「汚してもあかんし。もったいない!第一、長襦袢のサイズ合わへんのちゃう?帯も私のとじゃ、釣り合わへんわ。」

かなり抵抗してみたものの、用意周到な彩乃くんは、ばっちり合う帯と、長襦袢まで持ってきていた。

どう考えてもこの分野で私が彩乃くんに勝てるわけがなかった。