「ありがとうございました!」
色々言いたいことはあるけど、とりあえず今日は時間もないので、送っていただいたお礼を言って、私は車を降りた。
お家元の門をくぐり、勝手口からお邪魔する。
「あの、お手伝いに参りました、村上明子です。」
年かさの女性にそう挨拶すると、
「はいはい、聞いてますよ。ご苦労様。じゃ、とりあえず着替えてくださる?」
と、小部屋を案内された。
私は持参した無地の一つ紋に着替えて、割烹着を持って出た。
「あら、あなたは若いからお運びをお願いしますね。割烹着は、つけんと。」
そう指示され、
「……不作法ですが……」
と謙遜して、段取りを教えていただいた。
お茶会の水屋もそうだが、こういった華やかな会の裏は、たいがいドロドロしている。
派閥があったり、明らかなイジメがあったり。
私のように、まだお子ちゃまなお客さんに牙をむく人はいないけど、歓迎はされるわけがない。
例えば、自分で着付けた帯が曲がってても、裾が乱れてても、親切に教えてくれる人もいない。
芳澤流前家元の娘さんで、現家元の妹さんである師の師は、当然幹部として名取試験の採点に当たっているだろうし、こんな裏方には目が届かないだろう。
私は、黙々と準備を手伝い、お出しする手順のシュミレーションを重ねてから、こちらの社中さんの後ろについて舞台のある大広間に入った。
板間の舞台では、ガチガチに緊張した大学生ぐらいの綺麗なお姉さんが舞っていた。
横には三味線と長唄の男性が並んでいる。
生演奏での試験とは贅沢なものだ。
「お家元からお願いします。」
社中さんの小さな嫌がらせに笑顔で返事をして、私は上座へと進む。
脇に控えて座り、舞が終わったところで立ち上がり、次の受験者の舞い始めるまでの数分間に、採点の邪魔にならないように8人の幹部にお茶を出す。
別に難しいことは何もない。
……お家元はが立ち居振る舞いに厳しいことだけ、かな。
でも、伊達に幼少期からお茶を習ってるわけではない。
誰からも文句のつけようのない完璧な所作で、私はお家元にお茶をお出しした。
「あら、あなた。……ありがとう。」
家元は私を見てちょっと反応されたようだが、鷹揚な笑顔でそう言ってお茶を受け取ってくださった。
私は、伏し目がちに次のかたへと、いざり進んだ。
お家元以外には特に緊張する相手もいないだろうと、緊張を解いてお茶をお出ししていく。
5人めにお出しした時、視線を感じたけれど、めんどくさいので顔を上げずにやり過ごした。
6人めにお茶を出していると、「カシャッ」と如何にも作られたシャッター音が聞こえた。
その音を発したであろう5人めのほうを訝し気に見ると、携帯のカメラを私に向けているのは、真面目くさった顔の彩乃くんだった。
色々言いたいことはあるけど、とりあえず今日は時間もないので、送っていただいたお礼を言って、私は車を降りた。
お家元の門をくぐり、勝手口からお邪魔する。
「あの、お手伝いに参りました、村上明子です。」
年かさの女性にそう挨拶すると、
「はいはい、聞いてますよ。ご苦労様。じゃ、とりあえず着替えてくださる?」
と、小部屋を案内された。
私は持参した無地の一つ紋に着替えて、割烹着を持って出た。
「あら、あなたは若いからお運びをお願いしますね。割烹着は、つけんと。」
そう指示され、
「……不作法ですが……」
と謙遜して、段取りを教えていただいた。
お茶会の水屋もそうだが、こういった華やかな会の裏は、たいがいドロドロしている。
派閥があったり、明らかなイジメがあったり。
私のように、まだお子ちゃまなお客さんに牙をむく人はいないけど、歓迎はされるわけがない。
例えば、自分で着付けた帯が曲がってても、裾が乱れてても、親切に教えてくれる人もいない。
芳澤流前家元の娘さんで、現家元の妹さんである師の師は、当然幹部として名取試験の採点に当たっているだろうし、こんな裏方には目が届かないだろう。
私は、黙々と準備を手伝い、お出しする手順のシュミレーションを重ねてから、こちらの社中さんの後ろについて舞台のある大広間に入った。
板間の舞台では、ガチガチに緊張した大学生ぐらいの綺麗なお姉さんが舞っていた。
横には三味線と長唄の男性が並んでいる。
生演奏での試験とは贅沢なものだ。
「お家元からお願いします。」
社中さんの小さな嫌がらせに笑顔で返事をして、私は上座へと進む。
脇に控えて座り、舞が終わったところで立ち上がり、次の受験者の舞い始めるまでの数分間に、採点の邪魔にならないように8人の幹部にお茶を出す。
別に難しいことは何もない。
……お家元はが立ち居振る舞いに厳しいことだけ、かな。
でも、伊達に幼少期からお茶を習ってるわけではない。
誰からも文句のつけようのない完璧な所作で、私はお家元にお茶をお出しした。
「あら、あなた。……ありがとう。」
家元は私を見てちょっと反応されたようだが、鷹揚な笑顔でそう言ってお茶を受け取ってくださった。
私は、伏し目がちに次のかたへと、いざり進んだ。
お家元以外には特に緊張する相手もいないだろうと、緊張を解いてお茶をお出ししていく。
5人めにお出しした時、視線を感じたけれど、めんどくさいので顔を上げずにやり過ごした。
6人めにお茶を出していると、「カシャッ」と如何にも作られたシャッター音が聞こえた。
その音を発したであろう5人めのほうを訝し気に見ると、携帯のカメラを私に向けているのは、真面目くさった顔の彩乃くんだった。



