彼は藤娘

いやいやいや。
2人きりじゃないし。
周囲に女の子いっぱいいるし。
てか、今の言葉に車内ざわつきましたけど……。

ちょっと困ってると、彩乃くんがため息をついて重い口を開いた。
「俺も来る。」

セルジュと竹原くんは、満足気に顔を見合わせていた。
私もうれしくて、頬が緩む。

彩乃くんはまた窓のほうを見たけれど、電車は既に地下に入ってるので窓に彩乃くんの表情がよく映っていた。
私たちは、窓ガラスを鏡に、目を合わせて微笑みあった。

セルジュと竹原くんの前では私に対して必要以上にクールな彩乃くんと、少しは意思疎通できるようになったらしい……まあ、彼らにもバレバレやろうけど。

とりあえず、彩乃くんが機嫌を損ねてなければ、いいや。

中間テストが無事に終わり、早速、現国と英語の答案が返された土曜日。
自分に課している目標値である「平均点より10点上」をクリアーしてることに満足して、私は終礼後に飛び出した。

「あれ?あきちゃん、今週も急ぎ?ん?荷物おっきい……まさか、お泊まりデート!?」
毎日恒例のように終礼ダッシュをしている遙香にそう聞かれて苦笑する。

「残念ながら、仕事みたいなもんやわ。お茶出しのお手伝い。」
「ふぅん。大変ね。……どこまで行くん?」
「寺之内。」

茶道や華道などのお家元がやたらに多い地域に、芳澤流のお家元もあった。
ちなみに、先週行ったお華のお家元とは二筋違いのご近所さんだったりする。

「あ、じゃ、送ったげる!彼氏が迎えに来てるし!」
「え!?『二太郎』くん!?」
遙香は、しーっと唇に人差し指を宛てた。
つやつやぷるんの唇といい、キラキラ輝くネイルアートといい、ほんと遙香は女子力高いと思う。

「えーと、『五太郎』になるのかな。でもそんな風に呼ばんといてや。」
当たり前やろ……と心の中で思いつつ、一応辞退したけど……今日は荷物も多いので助かる。

「すみません、よろしくお願いします。」
正門を出てすぐのところに停まっていたのは、白いBMW。
運転席には、どう見ても学生じゃない男性。
遙香の五太郎くんは、社会人なのか!

「あ、どうも。えーと、後部座席、狭いけど……」
五太郎くん、いや、五太郎さんは人の良さそうな雰囲気だ。

が、ドアを開けて、私は目を剥いた。
……チャイルドシートが設置されてるんですけど……。

助手席に乗り込んだ遙香がクスクスと小悪魔さながらに笑う。
「意地悪やなあ、遙香。前もって言うてくれたらちゃんと隠すのに。」
五太郎さんが恥ずかしそうに言いながら車を走らせた。

……つまり、なんですか……五太郎さんは子持ち……。
えーと、不倫ということでよろしいでしょうか?

いや、もう、遙香には驚かされっぱなしやわ。