彼は藤娘

「パンフレット、俺らが渡すわ。」
そう言って、竹原くんが受付台からホッチキスで綴じたパンフレットの束をどっさり抱えた。

一部手渡されたのをパラパラめくって拝見する。
むっ!
これは、確かに、レベル高い。
私は真剣に読み込み、つい、ふら~っと人の波についていきそうになる。

「おい、そこ、邪魔。」
冷たく厳しい声が背中に突き刺さる。

慌てて振り返ると、梅宮くん!
怒ってる!

「ごめんなさいっ!」
あ、声出しちゃった。

慌てて私は人の列から離れて、ポコちゃんの竹原くんの隣に戻った。
「怒られちゃった。」

小声でそう言うと、ポコちゃんの手が私の肩をポンポンと軽く叩いた。
「気にすんな。真面目なやつやねん。」
……どうでもいいけど、竹原くん、ボディタッチ多い。

しばらくおとなしく入場者にパンフレットを手渡しながら、梅宮くんを見つめていた。
確かに、彼は真面目な人のようだ。
そして、クール。
笑顔が全然ない。
こないだは、優しい目で微笑んでくれたのになあ。
思い出の中で美化してしまったのだろうか。

1時間後、次の受付当番の女の子が来た。
簡単に引継をして、さっさとバックヤードに引っ込む梅宮くんを目で追った。

「ほな、俺らもペコちゃんとポコちゃん終わりやな。この後、どうしたい?」
「ん~。ちょっと心を落ち着けたい。茶道部のお茶席に行ってきていい?」
「あ、俺も誘われてる!行こ行こ。」

……独りで行きたいのに。

「かばん取ってくる。」
私はそう言って廊下に出ると、物置になっていた隣の教室へ入った。
さすがに暑い。
かばんの中からお扇子袋を取り出して開き、扇子で仰いで風を作る。
ペコちゃん、もう取ってもいいよね。
そう思った時に、物音がした。

振りかえると、テラスから梅宮くんが入ってきた。
わああああっ!!!
私は慌てて会釈して、教室を飛び出した。
……ペコちゃんのままでいてよかった。

廊下に出ると、既にポコちゃんから脱皮した竹原くんが幾人かに囲まれて話していた。
やっぱり独りで行こう。
私はペコちゃんを取って、竹原くんにそっと渡す。

「……ありがとう。お話邪魔してごめん。ほな、行くわ。」
そう言ってその場を離れた。

「ちょー、待ちっ!俺も行くって!」
廊下を走って追ってきた竹原くんに手をつかまれる。
「あきちゃん、すぐ逃げるから、大変やわ。」

……逃げる……そうかもしれない。
わざわざ来てるのに、中途半端に見るだけで、せっかくのチャンスには逃げ出してしまってる。
我ながら不器用なことしてるわ。

「ペコちゃんとポコちゃんは?それにお友達、いいの?放置して。」
手を放してほしいなあ、と思いつつそう聞く。

「うん、ちょうどさっきしゃべってた人に借りたから、ちゃんと返せたで。」
竹原くんはすましてそう言うと、今度は逆に私の手を引いて歩きだした。
「あの……手……」

人目が気になるのでそう言ってみたけれど、竹原くんは「ドナドナ」を歌い出し、結局そのまま手を引かれてお茶室へと入った。