彼は藤娘

佐野家で一番の権力者の提案は、すなわち決定事項を意味するらしい。

奈津菜は手を叩いて喜び、ちっちゃな奈津花ちゃんと頬をすりつけた。
「なっちゃん、よかったねえ!ひらひら、だよ~。かわいいお着物いっぱい着られるよ~。」
奈津花ちゃんはきゃっきゃはしゃいで、小さな手で奈津菜の首にしがみついていた。

「女の子も、かわいいなあ……」
お家元に帰り着いてから、彩乃くんがしみじみとそう言った。

「そやねえ。女の子はかわいいやろねえ。彩乃さんはちっちゃい頃からきれいな子やったけど、いわゆるかわいげのある子ではなかったしねえ。あんたら若いねんし、両方産みよし。」
お家元は、子供の話になると、ご機嫌さんになる。

「……いや、彩乃くんに似たら男の子でも女の子でもきれいな子やろけど、半分私の遺伝子ですからね……期待し過ぎんといてくださいね。不細工な子でもかわいがってくださいね。」
思わず牽制すると、お家元は吹き出して笑った。

「いややわ!明子ちゃん、かわいかったえ。美人やのぉても子供はかわいいもんやから気にせんときよし。ねえ?彩乃さん。」
「ああ。あきは、かわいい。かわいいに美醜は関係ないからな。俺には誰よりもかわいいで。」

……2人が私をかわいがってくれてることと、不美人を否定してないことがよくわかる。
私は苦笑して、つぶやいた。

「美人じゃなくてもいっぱい愛されてかわいがられて、幸せ者ですねぇ、私。」



1ヶ月後、あっさりすぎるぐらいあっさり、私は懐妊した。
本当は、有馬に行く予定を立てていたけれど、まだ安定期に入ってないので断念した。

お腹の子が男の子とわかると、秋のバーデン・バーデン旅行も幹部連中の猛反対を受けて、断念せざるを得なかった。



翌年、待望の息子が生まれた。
祖先ゆかりの名前がいいだろうと、お家元と相談して、咲弥(さきや)と名付けた。

さらに次の年には、娘が生まれた。
こちらも、芳澤流ゆかりの名前から、菊乃(きくの)と名付けた。

2人とも、彩乃くん譲り色白の肌に、二重まぶたの明るい綺麗な瞳をしていて、ほっとした。
優性遺伝子がちゃんと強くてよかった!
子供たちは物心つく前から、おばあさまによって跡取り教育を施され、まっすぐ芸の道を精進してくれている。


遥香は、大学院修士課程修了後、上垣さんと結婚した。
上垣さんのお父さまが亡くなられたのを機に、金沢のお寺に入った。
夫婦仲がとてもよく、檀家さんとの関係も良好だったが、2人には終生子供ができなかった。
いずれ、仏縁のある誰かにお寺を託すことになるだろう。