お昼は、大学の寮の食堂へ行った。
もちろん高校にも食堂はあるが、夏休みは完全休業。
大学のほうがメニューが豊富なので、私達のテンションはいつもより高めだった。

デザートのソフトクリームを食べてると、
「あきちゃん、仕事?」
と、背後から声をかけられた。

親友の藤木 燈子(とうこ)が、所属しているダンス部のジャージで立っていた。

すらりと伸びた肢体と品のいい顔立ちは、ダサいジャージでも美しい。

「うん。燈子ちゃんは?練習何時まで?」
一緒に帰れるかな~、と期待して聞いてみた。

燈子ちゃんは、苦笑いした。
「たぶん下校時間ギリギリ。さすがに居残り届は出さへんと思うけど。」
「……ご苦労さまです。」

燈子ちゃんのクラブは伝統と実績を兼ね備えていて……厳しい。
コンクールや発表会前には、朝練や昼練に加えて、下校時間の延長までして練習に励んでいる。

「あ。ライン見た?遙香(はるか)がお泊まり会しようって。」
たぶん携帯チェックをする暇もないであろう燈子ちゃんにそう伝える。

「いつ?土曜日がいいなあ。日曜日ゆっくりできるし。」
やっぱり見てなかったらしい。

「うん、週末。ほな、燈子ちゃんも参加って入れとく。」
「ありがと。……遙香、遊びほうけてると思っててんけど、うちらと遊ぶ時間もあったんや。」
「また何か報告があるんかもよ?」

川村遙香は隣県一偏差値の高い公立高校を落ちて我が校に渋々入ってきたのだが、入学式で早くも後悔したらしい。
女子しかいないことに耐えられないそうだ。
……慣れたらものすごく楽ちんな環境なのだが……遙香は合コンやデートを繰り返して鬱憤を晴らしている。
入学して半年足らずで、遙香には何人の彼氏ができたのだろう。

「遙香が誰と付き合おうが別れようがどうでもいいけど、みんなでお泊まりはうれしい。なっちゅんも来るんでしょ?」
なっちゅんこと稲垣 奈津菜(なつな)は、幼稚園からこの学園に通っているお嬢様。
マイペースでおっとりしてる可愛い人。

「そのはず……あ、先輩ら、行くみたい。燈子ちゃん、また後でライン見て!ほな、行くわ!練習がんばって!」
「わかった~。あきちゃんもお仕事、がんばれ!」
私は燈子ちゃんと別れて、先輩がたの後を追った。


15時、習い事を理由に私は先に上がらせてもらう予定だった。
が、どうしても作業のキリがつかず、15時20分にやっと出られた。
再び太陽に向かって、私は坂を走って降りてく。


京阪電車で移動して、四条大橋を渡り、阪急電車に乗りかえる。
どちらの電車も一応エアコンはついているが、昨今の省エネの風潮で車内はハッキリ言って暑かった。