彼は藤娘

舞踊会では、出演者みんながおめでたい演目を舞ってくれた。
「鶴亀」「祝言式三番叟」「青海波」「老松」「七福神」「北州」「蓬莱」「松の緑」などなど。
昨秋、師範をいただいた燈子ちゃんも、三番叟に華を添えてくれた。
彩乃くんは今回は舞わず、最後にお家元が「花筐」で気高い恋心を舞ってくださった。

終演後、八坂倶楽部二階の大広間で親類が集(つど)って昔ながらの祝言を挙げた。
凜々しく美しい彩乃くんについて、白無垢と綿帽子で広間に入場し、高砂席で綿帽子を取って角隠し姿を披露した。
雄蝶雌蝶に注いでもらって三三九度を交わした後、「高砂」を謡っていただいた。

その後、花嫁タクシーでホテルへ移動して、角隠しも取って、赤い打ち掛けで披露宴。
芳澤流の諸先生がたや、綾之会の面々、友人たちにも来ていただき賑やかな宴となった。
型通りの、主賓の挨拶や乾杯の後は、飛び入りの祝い舞を含めた有志の余興を楽しみながらこっそり食事もしつつ、いろんなかたとお話しもできた。

この時、だ。
彩乃くんのお母さま、つまり今日私の姑となったお義母さまが、今更なことを言って泣き出したのは。

「明子さん、私のことが嫌いなのね。2人で暮らすならともかく、よりによって、芳澤に住むなんて。ひどいわ……」

は!?
今更、お義母さまは、何をおっしゃってるの?
てか、彩乃くん!?
言ってなかったの!?
マジか!

「言うたやん!ちゃんと!芳澤の夫婦養子になるって。」
高砂席で姑に泣かれて途方に暮れてると、彩乃くんが慌ててそう言った。

「養子って戸籍だけの話じゃないん?私より芳澤の家元を選んだのね……」
お義母さまは彩乃くんの手を握ってそう言って泣いた。
さすがに、異様な雰囲気に気づいた列席者がこっちを気にし始めた。

「……お義母さま、控え室でお話しましょうか。」
そう言ったけど、逆効果だった。

「あなたに指図されたくありません!」
涙目でキッと睨まれてしまった。
お手上げだ。
ホテルの介添人さんもオロオロしてる。

私は、会場のどこかにいる義人くんを目で探す。
「奥さま、どなたかお探しですか?」
異変に気づいてすぐ来てくれたらしい義人くんが、すぐ斜め後ろから声をかけてくれた。
早っ!さすがっ!

「ごめん、彩乃くんのお継父さま、呼んで。私たちじゃ無理みたい。」
義人くんはウインクして、高砂席を下り、彩乃くんのお継父さまを呼びに行ってくれた。
お継父さまは、ビール瓶を持って各テーブルを回ってご挨拶をしてくださっていたようだ。
ビール瓶を持ったまま、お継父さまが慌てて来てくれた。