彼は藤娘

来た-!遊女の燈子ちゃん、登場!
美人~~~!綺麗~~~!色っぽい~~~!!!
元禄勝山の鬘がすごく粋!
お着物は白地に赤の鹿の子柄。
襟をひっくり返して赤を見せて、艶っぽいわぁ。

ん!?
最前列のテオさんが立ち上がった!
で、隣の希和子ちゃんが、テオさんの腕を引っ張って座らせた!

……何か、おもしろいな。
舞台は生物(なまもの)やけど、客席もまたリアルに生(なま)なんだな、とおかしく感じた。

それにしても、彩乃くんと燈子ちゃんは、ものすごく耽美だった。
今を盛りと咲き誇るあでやかな大輪の牡丹のような燈子ちゃん、ここまで上手くなってはったんや……と、感慨深かった。

これなら、この秋、本当に燈子ちゃんは師範試験に合格するような気がする。
……実は今回、彩乃くんが燈子ちゃんと舞ったのは、燈子ちゃんの実力を周知するためだ。
さすがに名取の翌年に師範は早すぎるので、燈子ちゃんが特別熱心で既に師範としても充分通用すると諸先生方に認めてもらおう!と共演をすることになった。

お家元も太鼓判を押す実力に、伸びやかな姿態、彩乃くんの手による完璧なお化粧。
燈子ちゃん自身も、驚くほどに素晴らしい出来だ。

……たぶん、自分に自信のなかった燈子ちゃんの背中を押すこともできたんじゃないかな。

彩乃くんの目は、とても穏やかで優しい。
熱心な弟子を見守る温かい師匠の目。
わずか5年弱でここまで成長した弟子を慈しみ、誇りに感じ、そして少し淋しく想っているように見えた。

もう大丈夫。
燈子ちゃんはちゃんと師範になって、大学を卒業したら、ニューヨークに飛べるだろう。

♪花も実もある しこなしは 一重二重や 三重の帯
 えにしの糸ぞ そろかしく♪

そろかしく……か。
そういや、むか~し、彩乃くんが私に言ったことあったっけ。
私とのご縁の深さを感じ入って、はい、おしまい!って。

……あの時はよくわからなかったけど、今はわかる。
元々は「布団のうちぞ、そろかしく」だったけれど、生々しすぎるということで、「襖のうちぞ、そろかしく」と改変されたらしい。
それをさらに美しく「えにしの糸ぞ そろかしく」とするバージョンを芳澤流では用いているようだ。

ふふ。
「はい、おしまい!」にはならないよ。
えにしは深いんだから。
これからも、ずっとずっと繋がってるんだから。

燈子ちゃんとも、遙香とも、奈津菜とも!




大学の卒業式の数日後、私たちは晴れて結納を交わした。

そして、5月、恒例の歌舞錬場での舞踊会の日の朝。
お家元もご一緒に3人で 区役所に行った。

……婚姻届を提出して、私は一旦梅宮明子になり、すぐさまその場でお家元の夫婦養子となる手続きをして、芳澤明子となった。

「……15、いや、16年ぶりやな。芳澤彩乃に戻ったんは。」

彩乃くんは、かつての姓に戻って感慨深そうだった。