彼は藤娘

私は自分の愚かさに唇を噛んだ。
血の味が広がる。

たぶん赤く滲んだ血を、彩乃くんの舌が優しく撫でて塞ぐ。
髪を撫でられ、何度も繰り返して唇を重ねられた。

じんわりとこみ上げてきた涙が、目尻から一筋流れた。
「ごめん。彩乃くんを舞台前に動揺させたくなかってん。私にとって、彩乃くんは自分の命より大事。……自分が我慢すればいいって思ってて。」

私は両手で目を覆った。
「……いつもじゃないねん。たまに、痛くて……。でも、少し体勢を変えたら大丈夫やし……たいした問題じゃないって思ってて。彩乃くんが悦んでくれたらうれしいから……そのほうが大事やから……」

恥ずかしい。
口惜しい。
こんなこと言いたくないのに。
彩乃くんにされること、全てをうれしく受け入れたいのに。

「……ずっと?我慢してたん?」
悲しそうな声に、慌ててぶるぶると首を横に振った。
「それは違う!ほんまに、いつもは気持ちいいねん!すごく!演技とかしてへんし。」

彩乃くんは、小さくため息をついた。
「痛いのは、何で?……俺のせいか?」

私は、やっぱり首を横に振る。
「彩乃くんのせいじゃ、ない。私の身体が悪い。……もしかしたら子宮内膜症とかかもってちょっと不安やってんけど……昨日今日で確信した。昔の盲腸の手術で腸が癒着してるせいやと思う。腸捻転もはじめてじゃないねん。」

彩乃くんは驚いた顔をして、それから悲しそうに言った。
「あき……そんな大事なこと、もっと早よ教えて。俺かて、あきを気持ちよくしてあげたい一心やねん。露ほども、苦しめたくないねん。」

「……ごめんなさい。」
「謝らんでええから、ちゃんと話して。腸捻転ってものすごく痛いんやろ?……いつもそんなに痛かったんか?」
「腸捻転は、痛いよ。でも、……こうしてる時は、そこまでじゃないから。それに、本当にいつもじゃないねん。」

どう伝えればいいのかわからない。
困っていると、彩乃くんが私の涙を唇ですくいとった。

「ごめんな。何となく、つらそうに感じたこともあったのに、目が合ったらいつも笑顔を見せようとしてたから……深く考えず見逃してた。」

キューンと胸が疼いた。
一応気づいてくれてたのか。
もう、それで充分。
むしろ、恥ずかしくて、今まで黙ってて、ごめんなさい。

「これからは、いたわるから。……バックは大丈夫やねんなあ?」
「う……うん……」
私の返事を聞くと、すぐに彩乃くんは私をひっくり返した。
背後からぎゅーっと抱きしめられる。
さっきまでの痛みも涙もどこかへ飛んでしまった。
ただ、気持ちいい。
彩乃くんの熱でいっぱいになる。

……ん?
あれ?
何か……違う……。

「あの……ゴム、してへんような気がするねんけど……した?」
恐る恐るそう聞くと、

「あ!」
と声を挙げて、彩乃くんは止まった。