彼は藤娘

翌日、10時過ぎにお家元へ行った。

既に彩乃くんは、お稽古場で衣装に汚れや綻びが生じなかったかのチェックをしていた。
重たい金襴緞子系の打ち掛け類は終わってるようで、ちょっとほっとした。

「おはよう。昨日はごめんね。パーティー和やかに終わった?」

彩乃くんは、じろっと私を見た。
……怒ってる。

「彩乃くん……あの……」
困ってる私を彩乃くんは、無言のまま手招きした。

恐る恐る近づいて、彩乃くんの前に座る。
彩乃くんは持っていた藤娘用の帯をポイッと脇へやると、私に手を伸ばした。
怖い顔をしてるから、てっきり頬をつねられるか、デコピンでもされるのかとドキドキしたけど、ただ頬に手をあてがわれた。
温かさにホッとする。

「身体、大丈夫か?」
彩乃くんの声が硬い。

「うん。今は。」
嘘だ。
腸が、まるで筋肉痛のように、引きつれると鈍痛を訴えている。
でも、これは昔も経験してるので、大丈夫。
私は無理やり笑顔を作って見せた。

でも彩乃くんは、綺麗な顔を歪めた。
「嘘つき。」
そう言って、彩乃くんは私を押し倒した。

「ちょっ!ココはあかんて!誰か来たら……」
唇をふさがれて、口内を蹂躙される。
それだけでもう抵抗できなくなる。
甘い舌に痺れ、何度も唾液を流し込まれ、やっと唇を放された。

「今日は誰も来いひん。家元も、手伝いも断った。」
彩乃くんはそう言って、私の服を破りそうな勢いで強引に脱がせていく。

「寒い……」
床板の冷たさに身を震わせたけれど
「すぐ熱くなる。」
と、抱きすくめられた。

明るい陽射しの中、唇と指先を全身に這わされ、くすぐったさと恥ずかしさで眩暈(めまい)がしそう。

でも、昨日腸捻転を起こしたばかりの身体には、やっぱりちょっと……
途中から、私は苦痛に顔を歪めてしまった。
普段でさえ、正常位が長く続くと痛みを感じるのに、これは……やばい、吐き気がする。
昨日の朝からほとんど何も食べてなくて、吐くものなんかないのに、気持ち悪い。

ポタッと、生温かいものが私の頬に落ちてきた。
目を開けると、彩乃くんの両目から涙。
泣いてはる……

驚いてじっと見上げる。
彩乃くんもまた、涙を落としながら私をじっと見下ろしていた。

「何で?泣いてるの?」
恐る恐るそう聞くと、彩乃くんはボロボロと盛大に涙を私の顔に降らして言った。

「あきは?何でそんな顔してるん?何で俺にちゃんと言うてくれへんの?痛いんやったら痛いって、言うてぇな。……何で、あきが倒れたとか、他の奴から聞かされるん?何で、おれだけ何も知らんの?俺、あきの、何なん?」

しまった……。

私、間違えたんや。

彩乃くんに心配かけたくなくて、逆に傷つけてしもたんや。