「ありがとう。」
2人を交互に見てお礼を言う。
お茶、あったかい……おいしい……。
「……あきらけいこは、お家元が好きで、お家元のようになりたいんだろうな、ってのはわかるけど……立場が違うからね?あきらけいこはお家元ほどがんばって何もかも背負わなくてもいいんだよ?というか、背負っちゃだめなんだよ?ちゃんと彩乃に背負わせるんだよ?」
セルジュはそう言って、私の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でた。
「でなきゃ、あきらけいこの心身がもたないよ。」
う……。
今度は抑えることができず、涙がボロボロとこぼれた。
2人の言葉と心が私のなかに染み入ってくる。
たぶん私は、このときはじめて彼らに依存し甘えた。
かつては、2人にとっては私なんか彩乃くんありきの友人でしかない、と淋しく感じたけれど、今は……たぶん違う。
ほどよい距離感を保ちながら、見守ってくれている。
ちゃんと、1人の人間として心配してくれている。
やっとそれを実感できて、私は……救われた。
舞台が始まる直前に私たちは客席へ移動した。
今回もアメリカからのお客さんがけっこういて、場内は満員御礼だ。
セルジュや義人くん、燈子ちゃん達には前のほうの席を取ってあったけれど、私は一番後ろで立ち見するつもりだった。
が、少しまだ体調が心配だったので、後ろに座布団席を準備してもらって観た。
今年の大トリは、芳澤綾之助、つまり彩乃くんによる「雪」。
去年は「鷺娘」だったので同じような白い演目だけど、今年のほうが艶っぽい。
男に捨てられて出家した元芸妓が雪の夜に1人で泣く……彩乃くんには縁もゆかりもない設定だろうと心配したけれど、本人的には私に会えない日々の悶々とした想いを転化させてみたらしい。
♪恋しき人は罪深く
思はぬことのかなしさに
捨てた憂き 捨てた浮き世の山葛(やまかづら)♪
ん?
何か、私、責められてる?
……いかんいかん。
ちょっと卑屈になってるかも。
被害者意識なんか持つ必要ない。
この美しい人を、ただ、支えたい。
それだけなんだよね、本当に。
終演後、腸捻転を治して下さった先生にお礼を言いに行った。
「先ほどは、ありがとうございました。おかげさまで舞台を最後まで拝見することができました。」
「副家元、お忙しいでしょうに、舞が深くなってはりますね。普通やったら浮わつくお年頃ですのに。」
……話が噛み合ってない……けど、彩乃くんを褒めてくれてはるなら、まあ、いっか。
「舞にも勉強にも真摯に取り組んでらっしゃるので、浮わついた遊びに興じる時間もないようです。」
苦笑しながらそう言うと、先生は少し微笑んでくださった。
「うまいこと色気も出て来はったし、この調子で精進してくださると安心です。……家元の元気なうちに、ひ孫、産んだげてくださいね。村上さんの一番せなあかん仕事は次世代に繋ぐことですえ。」
ぶわっと頬が熱くなる。
たぶん真っ赤になったであろう私に快活な笑い声を残して先生は去って行かれた。
2人を交互に見てお礼を言う。
お茶、あったかい……おいしい……。
「……あきらけいこは、お家元が好きで、お家元のようになりたいんだろうな、ってのはわかるけど……立場が違うからね?あきらけいこはお家元ほどがんばって何もかも背負わなくてもいいんだよ?というか、背負っちゃだめなんだよ?ちゃんと彩乃に背負わせるんだよ?」
セルジュはそう言って、私の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でた。
「でなきゃ、あきらけいこの心身がもたないよ。」
う……。
今度は抑えることができず、涙がボロボロとこぼれた。
2人の言葉と心が私のなかに染み入ってくる。
たぶん私は、このときはじめて彼らに依存し甘えた。
かつては、2人にとっては私なんか彩乃くんありきの友人でしかない、と淋しく感じたけれど、今は……たぶん違う。
ほどよい距離感を保ちながら、見守ってくれている。
ちゃんと、1人の人間として心配してくれている。
やっとそれを実感できて、私は……救われた。
舞台が始まる直前に私たちは客席へ移動した。
今回もアメリカからのお客さんがけっこういて、場内は満員御礼だ。
セルジュや義人くん、燈子ちゃん達には前のほうの席を取ってあったけれど、私は一番後ろで立ち見するつもりだった。
が、少しまだ体調が心配だったので、後ろに座布団席を準備してもらって観た。
今年の大トリは、芳澤綾之助、つまり彩乃くんによる「雪」。
去年は「鷺娘」だったので同じような白い演目だけど、今年のほうが艶っぽい。
男に捨てられて出家した元芸妓が雪の夜に1人で泣く……彩乃くんには縁もゆかりもない設定だろうと心配したけれど、本人的には私に会えない日々の悶々とした想いを転化させてみたらしい。
♪恋しき人は罪深く
思はぬことのかなしさに
捨てた憂き 捨てた浮き世の山葛(やまかづら)♪
ん?
何か、私、責められてる?
……いかんいかん。
ちょっと卑屈になってるかも。
被害者意識なんか持つ必要ない。
この美しい人を、ただ、支えたい。
それだけなんだよね、本当に。
終演後、腸捻転を治して下さった先生にお礼を言いに行った。
「先ほどは、ありがとうございました。おかげさまで舞台を最後まで拝見することができました。」
「副家元、お忙しいでしょうに、舞が深くなってはりますね。普通やったら浮わつくお年頃ですのに。」
……話が噛み合ってない……けど、彩乃くんを褒めてくれてはるなら、まあ、いっか。
「舞にも勉強にも真摯に取り組んでらっしゃるので、浮わついた遊びに興じる時間もないようです。」
苦笑しながらそう言うと、先生は少し微笑んでくださった。
「うまいこと色気も出て来はったし、この調子で精進してくださると安心です。……家元の元気なうちに、ひ孫、産んだげてくださいね。村上さんの一番せなあかん仕事は次世代に繋ぐことですえ。」
ぶわっと頬が熱くなる。
たぶん真っ赤になったであろう私に快活な笑い声を残して先生は去って行かれた。



